みんなで夜ふかし!(下)

「もしかしてだけどさ。白廉、この合宿始まってから、ほとんど寝てないんじゃない?」
 本当はこれ、白廉が寝てないってのを確かめてからいうつもりだったことなんだけどね。アラームで起きたのはそのため。
 白廉は何も言わない。ちょっと首を傾けて俯いてる。最近わかったんだけど、白廉のこのクセ、多分頭の中がせわしなく動いてる時になるんだと思う。多分だけどね。
 白廉の頭の中が落ち着くまで待ってると、結論が出たのか、白廉が一つため息をついた。
「…ああ。寝てない。」
 やっぱり…。
「どうして?枕変わると眠れないって言っても、ウトウトくらいすると思うんだけど…。」
 僕が考えた理由は、
「…田淵くんを警戒して…ってこと?」
 もしそうだったら申し訳なさマックスなんだけど……。
 そう僕がいうと、白廉が首を横に振った。
「そうだが、そうじゃない。」
 どゆこと?
「ああやって寝首をかかれることを警戒したのは、その通りだ。だが、それは田淵だけを警戒したわけではない。近くに人の気配…とでもいえばいいのかな。誰かがいると、無意識に警戒して、眠れないのだ。」
 …ってことは!
「なみ、邪魔だった?」
「いや違う!いや、違わないのだが……。」
 なみが別の部屋行った方がいいかなって立ち上がったら、白廉が慌てて否定して止めた。でも上手く言えないらしく、また斜めに俯いて考えてる。
「…お前のせいではない。俺が臆病なせいだ。気を遣わせて、すまない。気にしないでくれ。」
 白廉が、臆病……。
 こんなに強いのに?!って思ったけど、少し、わかった気がした。
 白廉は夜眠れないし、ご飯もうまく食べられない。常に眉根に力入って表情も硬い。人を避けてる感じがあって、馬鹿騒ぎとか絶対しない。
 運動能力高くてケンカ強くて、怖いものなんてないように見えるけど……ううん、こんなに強くなれたのもぜんぶ全部、白廉が極度の怖がりさんだったからってことなのかもって考えたら、なんだかとても納得しちゃった。
「……そっか。」
 あのね、僕、白廉のこと好きじゃん。だから、まあホントのホントの理想ってのは白廉の恋人になれたらいいなってのなんだけど、多分それは無理だと思う。だからせめて、かっこよくて可愛い白廉をいつまでもそばで見ていたいっていう願いがあった。
 でも今、それがちょっと変わった。
 僕、白廉を支えられるようになりたい。強いけど弱い白廉の、弱い部分を守れるように強くなりたい。物理的に強くなるのは無理でも、精神的に白廉を守れるようになる。そんな目標に変わった。
「よしっ!」
 手始めに、今思いついたことを白廉に提案してみよう。
「じゃあさ、このまま朝までお話してよ!」
 俯いてた白廉が驚いて顔を上げた。
「は?!」
「一人で起きてちゃつまんないでしょ?お話しようよ!でネタが尽きたらトランプしよ?」
 そう言いながら、白廉のすぐ隣に移動した。ちょっと体重をかけるくらいピッタリに座る。
「いや、お前は寝ていろ!明日もあるだろう?」
「明日は帰るだけでしょ?ずっとバスじゃん!ちょっとくらい夜ふかししたってだいじょーぶだいじょーぶ。」
 って言っても、僕一回寝たけどね。今の時間は深夜3時半くらい。7時起床だから、3時間半だけ。
 ね?って首をかしげると、白廉も諦めたみたい。
「…身体を冷やすと良くない。せめて布団に入ろう。」
「そだね。」
 と言って自分の布団に入ろうとしたところで、とてもいい案を思いついた。
 自分の布団にもぞもぞ入ってく白廉の背中に飛びつく。
「うわっ?!」
「白廉のおふとんいれてー!」
 そのまま勢いで白廉の布団に潜り込む。
 その方があったかいでしょ!とドヤ顔でいうと、またため息をついて、同じ布団に入ってきてくれた。でもこのため息は、さっきまでのよりも明るいものだった。

 こうして合宿が終わった。帰りのバスでも、僕は結構起きてたよ!白廉と隣同士の席でずっとおしゃべりしたりこっそりゲームしたり。白廉、すっごいゲーム強かった…動体視力とか反応速度とかがいいんだろうな…。
 それからその後、半年ほど大きな何かもなく平和に過ぎた。話すことはあるんだよ?普段のこととか行事とか、ゴールデンウイークとかプールとか白廉の誕生日とか夏休みとか文化祭とか。いろいろあったんだけど、僕が話したいのは白廉のことだから、びゅんっと飛ばさせて。すっとばした色々は機会があったら話すね。
 そんなびゅんびゅん飛ばしてっても、僕と白廉の間の話で飛ばせない、そんな大きな出来事が次にあったのは、ある秋の終わりの日。急な雨のあがった、下校中のことだった。


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