みんなで夜ふかし!(上)

 ぱしっ、と音がした。
「五月蝿いぞ。」
 それは、白廉が顔に伸びてきた腕をつかんだ音だった。腕を握ったままベッドの上で上半身を起こし、キッと腕の主を睨む。僅かにその目が光ってるようにも見えた。
 息を呑む音。
 僕はその隙をついて、布団から抜け出し部屋の電気をパチパチとつけた。
 一気に明るくなったことで目が眩むけど、だんだんと目が慣れて侵入者たちが誰だかわかるようになってきた。
 入ってきてたのは4人。その内3人は、運動部でがたいのいいのがそれぞれ殴ったら痛そうなものを握っている。でもう一人が、
「……田淵くん。」
 白廉にハンカチを持った腕をつかまれた、田淵くんだった。
「あっ、なみちゃん、お、起きてたの…?」
 そんな気持ちの悪い愛想笑いを浮かべてこっちを見ないでよ。
「なにしてんの?」
 4人ともうろたえてる。田淵くんは腕をつかむ白廉をチラチラ見てるけど、白廉は手を離さない。
「まあ、なにしようとしてるとかだいたいわかるんだけどさ。」
 大好きな白廉の前だけど、これはちょっと耐えられない。
「……正直、ドン引きなんだけど。」
 言い放って、先生呼んでくる、とドアの方に向かう。けど、そんな僕を白廉が止めた。
「なぁに、白廉?」
 振り返って白廉を見ると、なんだかちょっと楽しそうだった。可愛い。
「そこまで事を大きくしなくていい。一応未遂だし、俺の家の事情もあるからな。」
 そう言いながら、田淵くんの腕を握ってない方の腕で布団を上げる。
 そして次の瞬間には、布団の上に田淵くんが倒されていた。
「いっっ!!」
 その腕を後ろ手にひねりあげた白廉が田淵くんの上に乗り、いつもよりも低い声で白廉が囁く。
「だが、次はない。」
 その気迫に、小柄な白廉よりも遥かにガタイがいいはずの他の三人も押されていた。
 白廉が暫く威嚇した後、ふっと、田淵くんを押さえる腕と雰囲気が緩んだ。その瞬間、田淵くんと三人がドタバタと逃げていく。
 侵入者たちがいなくなって、部屋はまた静かになった。

 白廉が乱れた布団を戻してる間に、僕は部屋に備え付けてあったセットで温かいお茶をいれた。2杯ついで、片方を白廉に手渡す。
「ああ、ありがとう。」
 白廉がお茶を飲むのを見ながら、僕も白廉と向かい合う形で自分のベッドに座った。
「……ところで。」
 飲んで一息ついて、白廉が僕を見た。
「能力の落ち着き具合でわかったのだが…お前、侵入者が来る少し前に起きたな。」
 ギクリ。
「あいや、問い詰めるわけではない。すごくいいタイミングだなと思っただけだ。実際、お前に助けられたようなものだしな。」
 そう言われて、首を傾げる。
「なみ、なんにもしてないよ?電気つけただけだよ?」
「いや。恐らくお前が起きていなければ、あいつらはあのまま暴行を起こしただろう。お前が起きていたから激しいことを控えたのだと思う。ありがとう。」
 予想外にお礼を言われて戸惑っちゃう。
「で、何故起きた?」
 やっぱ問い詰めんじゃん!!
 でもっていうか、って僕もお茶飲んでから詰め寄る。
「そういう白廉も、やけにすっと起きたよね?」
 今度は白廉がギクリとした。
「あっいや別に問い詰めてるわけじゃないんだよ?」
 さっきとまるっきり立場が逆になってるねって笑って、ちょっと俯いちゃった白廉を下からのぞき込んだ。
「もしかしてだけどさ。白廉、この合宿始まってから、ほとんど寝てないんじゃない?」


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