衝撃の嵐
八江麗也。怪盗ハーチェスは、現当主の父で12代目にあたる。その初代までは千年ほど遡らなければいけないのだが、その初代の名は「レイヤ・ハーチェス」だった。
レイヤはいくつかの資料を残していた。なんかちょいちょい気づかないうちに改訂されてるっぽいけど。でもそのほとんどは読めない文字だ。そこで、俺ら(っていうかカシュアン)が解読し、いくらかわかったことがある。そのうちの一つは、レイヤは異世界の日本という国にいたこと。そしてその際使っていた名前は別表記であることなどだ。
その名は、八江麗也というものだ。
(……その名前がなんでここで出てくんだよ!!)
(知らないよ。ついさっきまで忘れてた私がそんなこと知るかよ。)
ほかの人に聞こえないよう、リトと小声で言い合う。
リトお前まじて物忘れ酷すぎねえか?!
(っていうか、まだ同一人物かわかったわけじゃないし。)
「おい、なにこそこそ話している。麗也がどうした。」
いい加減イラついたらしい緋の宮様が割り込んでくる。
「いやね、ロイルの家でさ、その麗也?が置いてったっぽいノートがあったんよ。こんなんなんだけど。」
そう言ってリトはけーたいとやらを取り出した。がらけーっていう古いタイプなんだってよ。リトはそれを少しいじった後、緋の宮様に渡した。
「どう?あんたの知ってる麗也と同じ感じ?」
緋の宮様が、渡されたケータイをじいっと見つめる。その横からなみも覗き込んでいた。
「…あー、あいつこの巫山戯た顔文字よく使ってたな。」
顔文字とはおそらく、ノートの最初の一文[やほーレイヤだぞ(*°ヮ'*)]のことを言っているのだろう。
「あと、筆跡も似ている。おそらく同一人物だろう。」
…マジかよ…!
ショックが大きすぎて、アディのふにゃふにゃ顔が崩れそうになる。それを精一杯の精神力で戻し、緋の宮様に尋ねた。
「ねえねえ、そのれいやさん?と緋の宮様ってどんな関係だったの?」
俺がアディではなくロイルだと知ってる緋の宮様が、このふにゃふにゃ口調を聞いて笑いを堪える。青の宮陛下にバレるだろやめろ。
「私が日本にいる間、私の母の弟という設定で養ってもらっていた。養父というやつだな。」
なぁんだ、養ってもらってただけか。ハーチェスは基本優しいから、それは仕方ねえな!
「まあ、養ってもらっていただけではないが。」
ちげえのかよ!
「日本に行った当時、私は本当に弱くてな。自信をつけるために、日常生活を一人でも送れる術や戦い方なども教わった。」
それまですっと聞き専だったなみが、ピコンと反応する。
「あ、ってことは、白廉が強いのってその麗也さんのおかげなんだ?」
「そうなるな。」
ほえ〜という気の抜けたなみの相槌を聞きながら、俺は未だ衝撃に打ちのめされていた。
子孫の俺の前には姿を表さず、他人のはずの緋の宮様は養い共に暮らし、さらには教育までしていたなんて!
「でまあ、それが本題じゃあないんだけどね。」
リトが、緋の宮様からケータイを取り返して、話を先に進めた。
「このノートの内容がさ、全部は画質とか容量とか的に写メられなかったから要約すると、」
そうだった、と緋の宮様となみと、今まで話に入れなかった青の宮陛下が居住まいを正す。
「世界移動能力植え付けといたから、みんなで仲良くおうちに帰ろうね☆みたいな感じ。」
イセン組の時が止まる。
「……えっ、ええっ?!麗也さん何者?!会ったことないけど!!」
最初に止まった時を破って声を上げたのは、なみだった。青の宮陛下も、硬い表情筋で戸惑っている。
そんな反応を見たリトが、わー正しい反応をしてくれてるー、と遠い目をしていた。
「ってか、世界移動能力ってなにそれ?!」
「読む限りだと、なんか私に植え付けられたっぽいわ。名前つけたんは私。」
なにそれぇっ?!となみが騒ぐ。
一方、一向に反応の無い緋の宮様が、俺は気になった。
「……緋の宮様?だいじょうぶ?」
気になって尋ねると、ゆっくりと口を開いた。
「ああ。大丈夫だ。」
ショックが大きすぎて反応できないのかと思ったが、緋の宮様の目を覗き込んで、それは違うらしいとわかった。
「なんというか……驚きはしたが、一周回って納得した。」
はあ?と怪訝な顔をすると、リトも頷いた。
「わかる。」
リトまで何を言い出してんだ?!
「私も会ったことあるの思い出してきたわ。なんか納得する。」
「只者では無いよな。生活習慣クズだけど。」
「生活習慣以外にも色々クズだろ。」
やめろ!人が尊敬してる先祖をクズとか言うんじゃねえ!!
そんな、全員が衝撃等に打ちのめされている状態で、話は終わった。
←|→