気高き怪盗

「忘れ物はないか?」
 その日の午後。俺達は中庭で、ノートにあった世界移動をするための用意をしていた。青の宮陛下がしきりに、緋の宮様の準備を気にしている。
「大丈夫です。来た時の格好と荷物で帰ればいいのでしょう。」
 そう、「来た時の格好」ということで、緋の宮様は黒T黒ズボン黒ブーツ(だっせぇ)、なみは男か女か微妙な線の洋服、リトは高校の制服とやらを着ていた。
「それだけではないだろう。麗也とやらへの土産など…。」
「いりませんよ!どうせ帰ってこないんですから、邪魔になるだけです。」
 緋の宮様にすげなく返され、青の宮陛下は土産らしき箱を手に、まゆを下げ引き下がった。
「リトは、だいじょうぶ?」
 引き続きアディの変装をしている俺は、アディっぽい行動をとる。
(……中身知ってる身からすると、あんたがそれ言うのなんか寒気する。)
(どーゆー意味だこら。)
 せっかく俺が協力してやってんのにコイツ!
「でもさぁ、ほんとにこれで帰れちゃうの?」
 なみが来て、リトにきいた。
「わかんない。」
 不安がってる子に対して曖昧な返答とか、こいつある意味すげえな。
「けど書いてある条件は、『私が体液以外の液体に触れていること』。」
 そう言ってリトは手に持っている水の入った水筒を見せる。
「それから『移動する人以外に見られていないこと』。だから他の人らがいなくなれば帰れるはずだよ。」
「ほぇ〜すごいねぇ…。リトちゃん何者なの……。」
 なみが気の抜けた声を出して感心する。それに対しリトは、軽く鼻で笑った。
「私はただの巻き込まれた被害者だよ。」
 そう。本当に何者かわからないのは「レイヤ」だ。
 俺の先祖だと思ったら、魂に能力埋め込む云々言い出し、またレイヤ・ハーチェスの時代から千年下った今緋の宮様を育て……。
「おい、そろそろ準備も終わっただろう。」
 声がかかり、思考が中断される。まだ心配そうな青の宮陛下を押しのけるようにして、緋の宮様が輪の中に入ってきた。
「いくぞ。」
「おけー。なみちゃんもいい?」
「うん!」
 身長153前後組が確認し合う。それを190近いアディ(に変装した俺)の高さから見てると、アディがリトをぬいぐるみ扱いする気持ちがわかる気がした。
「それでは、日本へ行く方以外は屋内へ入ってもらえますか。」
 日本に行く3人は中庭に残る。こちらの世界へ来た時と同じ、土足でないといけないことと、人気が無いことを考慮した場所だ。最初俺、イセンは靴脱ぐ文化っての忘れてて、室内の方がいいって主張しちまった。クソ恥ずかしい。
「うん、わかったー。」
 俺はアディらしく素直に返事をして、青の宮陛下を屋内へ引きずり込んだ。
「待て、まだ挨拶が……。」
「まあ、まだ成功すると決まったわけじゃないんで。」
 まだだと渋る青の宮陛下に、リトが声をかける。
「10数えるくらいして中庭見て、誰もいなかったら成功したと思っといてください。」
「……わかった。りと殿、くれぐれも弟を頼んだ。」
「はぁい。」
 リトの(心底面倒くさそうな)返事を聞いて、俺達や護衛の人たちは建物の中に入った。障子をピッタリと閉め、背を向ける。
 それから、10を数えた。
「……経ったかな。」
「そうですね。」
 青の宮陛下と確認を取り合い、閉めた障子を開けた。
 誰もいなかった。
「……無事、帰った様だな。」
 そう言って、青の宮陛下はほうっと息を吐いた。
 これで、俺のお節介は終わりだ。あとは帰って、ヤキモキして待っているであろう本物のアディへ伝えるだけ。あー疲れた。
 とかいって、帰る手段とか色々を考え、俺はこの場から意識を外していた。
 その時、突然俺の腕に痛みが走る。気づいた時には、俺は青の宮陛下の部下達に拘束されていた。
 どういうことだ?!と見回すと、目の前に青の宮陛下が立つ。
「……ど、どういうことですか?」
 床に跪かされたので首だけを回し、青の宮陛下を見上げながら問いかける。青の宮陛下は俺を見下しながら、懐からなにやら紙を取り出した。
「中庭へ行く途中にな、お前に関する情報が届いた。」
 ……まさか、また気づかれたのか?!
 ショックを受けていると、青の宮陛下は俺に目線を合わせ屈み、先ほどの紙を俺に見せた。
 そこに書かれていたのは俺……ではなく、アディの人相書き。
「このまま国へお送りしよう、殺人鬼アディ。」
 ……俺はもう、腹が捩れるほど笑うしかできなかった。
 考えられないタイミングで笑い出した俺に驚き、拘束が緩む。その隙に抜け出し、青の宮陛下を突き飛ばして中庭へ走り出した。勢いそのままに、庭石から木の枝、それから屋根へと飛び乗る。
「まったく……白で赤い誰かさんとは大違いだ!」
 アディの変装は既に解けかけている。屋根の上で俺は、アディからパチってきたサングラスを外し、青の宮陛下達を見下ろした。
「私は殺人などしませんよ。」
 時刻は黄昏時。夕焼けの赤の光を受けて、ハーチェスの金の目が光る。
「私の名はロイル・ハーチェス、気高き怪盗です。」



〔沢本南←→ロイル・ハーチェス・終〕

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