集中力の保つ限り
アディとリトが来た数日後、私は自室で、集めた情報達の確認と整理をしていた。肩の凝る作業ではあるが、情報収集の過程の中で最も楽しい作業であるとも言える。特に情報達の確認をする時。私の知らないことが次々と明らかになり、他の情報と繋がり、様々な推測と一つの結論を産み、新しい疑問を浮かばせる。この瞬間が堪らなく好きだ。この作業なら何日間でもしていられる。以前「お前の情報収集はもはや趣味」と言われたが、あながち間違いではないだろう。
そんな至福のひと時に浸っていると、突然首を締められた。
声を出すこともできず、スゥっと意識が遠ざかって行く。
そして限界が訪れ、意識を手放す直前、首を締めるものが離れた。
必死で酸素を取り入れ脳に血液を回そうとしながらも、せめて私を殺しかけた輩の顔を拝んでやろうと背後を見ると、
「いいかげん構えや!」
我儘な私の主人がいた。
「……はぁ、…ロ、ロイルさ…ま……あなたは…貴方は私を殺す気ですかっ…?!」
「そんなわけねぇだろ。俺がお前を手放す気は無いし、第一殺しなんかしない。」
「じゃあ、なんで首を、締めたんですか!」
「…っなんでって、お前なぁ!」
私は最もな文句を突きつけたつもりだが、ロイル様は信じられないとでも言うように顔を真っ赤にして怒った。
「机に噛り付いたまんま禄に寝食もしねぇで何日経ったと思ってんだバカ!!!」
ロイル様に言われてカレンダーを見る。
「えっと……約ニしゅ」
「ニ週間以上だおせぇよバカ!」
言おうとしていたのに、理不尽だ…。
「ニ週間もなぁ、話しかけてもまともな返事しやがらねぇしさぁ、どれだけ、どんだけ俺がさみしかったかわかるかお前?!?!」
ニ週間蓄電し続けていた巨大な雷が、一気に私へ降り注ぐ。
「一体なにをそんな集中してたんだよ?!」
「…す、すみません…『炎』を探していたら、他にも様々な伝承が…」
「『炎』が見つかったのか?!?!」
今日はやたらと元気ですね。
「はい、帰りの馬車でリトと『炎はイセンにいる可能性がある』という話になったので、そこから重点的に調べた結果、ものの数日で候補が見つかりましたよ。」
「マジかよ!だったらすぐ俺に報告しろよ!!」
それに関しては誠に申し訳ございませんでした。
「候補はどんな感じなんだ?」
「実はイセンに、リトと同じ時期突然出現したのは二人おりましてね。」
話しながら、雑多に広げられた机の上から二人の資料を掘り出す。そのうちの男の方の資料を差し出した。
「一人は、五年間ほど失踪していた現イセン皇帝の弟です。彼でしたら、あのノートに書かれていた『こっちが実家』という記述に沿います。」
「でもう一人は?」
「こちらは情報が少なくてですね……。」
もう一枚、女の方の資料を差し出す。
「確かなのは、この皇子と共に出現したことと、現在皇帝の宮殿に住んでいるということくらいです。他に、出身は異世界ですとか性別が疑わしいとかいう噂もありますが、裏付けは取れていません。恐らく皇帝が抑えているものと思われます。」
ロイル様は、渡した資料を最初の数行だけ投げ出してしまった。
「読むのだるいわ。お前はどっちが可能性高いと思うよ?」
せっかく人が集めた資料を…ロイル様酷いです。
「……まず、私は『炎』はリトの知り合いであると予想します。」
「なんで?」
私はレイヤノートのメモを取り出した。
「このノートでは、『水』に『炎』を探すことを命じています。ということは『水』は『炎』が誰かを知っている必要があります。その時は思い当たらないとしても、顔を見れば『この人が炎だ』とわからなければならない。ということは知り合いである可能性が高いと思われます。」
「お前話長い。結論言え。」
今日のロイル様酷い。なんですか?おこなんですか?これでも短くまとめたんですよ?
「ですから、私はこの女性の方が『炎』だと思います。男性の方は皇子ですから、異世界でも丁重な扱いは受けていたでしょう。リトは殺人鬼と同居できるくらいには平民ですから、彼と知り合うことは難しいと思います。」
「あでもお前の言う通りならリトに確認しに行きゃあいいじゃん。日が暮れる前に行こうぜ。机の上片付けろよ。」
「……ねぇ、今日のロイル様辛辣過ぎやしませんか…?」
「二週間も俺のこと無視ったヤツはどこのどいつだ?!!?!」
再び始まった説教を流し聞きしながら、出かける準備を始めた。
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