Passionflower 3





「ッ……止め、……ぁ、……い、ずみッ……」
 後ろから被さるようにしたまま前を寛げ、西の性器を直接愛撫していた。
 抵抗しようとしたのは最初だけで、元々弱いのか慣らされたのか、非常に感じ易い身体はもう力が入らないようだった。
 俺に背を凭れるようにしてぐったりしながら息を乱している。
 こうして触れていると、やはり断片的に記憶が甦る。
 どこに触れた時にどんな反応をしたか、そういう記憶を辿って弱い場所を責めると、面白いように西の身体は反応を示した。
 ただ一つ記憶に引き摺られないようにと気をつけていたのは、言動だった。
 先程の会話で何度か出てきたが言葉でからかわれるのが西は相当嫌だったらしい。
 だから、つい口をついて出そうになる言葉を飲み込み続けていた。
 無言のまま痛みを与えないようにただ快感だけを強く刻みつける。
 そうすると西は子供の様に泣きじゃくって俺に縋ってきた。
 どうしてこれを、昔の俺は知らなかったんだろう。
 知っていればもう少し優しくしてやれただろうに。
「……複雑だな、」
 呟くと、ビクリと西の背中が強張った。
 何を言われたのかと、怯えるような震えがその身体を走る。
 その背をやんわりと抱き締めて、耳朶に軽く歯を立てた。
「お前の事じゃない」
 気にするな、と囁いて手の中の熱を解放に導く。
 震えながら快感に咽ぶ西の姿を見ていると、自分の中にも熱が凝るのが判った。
 さて、このまま西に痛みを与えずに抱く事は可能だろうか?
 未だに俺は、こいつを抱いた時の経験を全て思い出したわけじゃない。
 そうなると男を抱くのは初めてで、知識的にどうすればいいというのは判るが怪我をさせない自信まではなかった。
「ん、……ッ、……っは、……」
 声を堪えて噛み締めている西の唇に、指先を押し付けた。
 傷になったかと思い跡のついた部分をなぞると、熱い吐息が触れて、濡れた粘膜に指先を包まれる。
「……西」
 眉を寄せて苦しそうな表情をするクセに、俺の指を丁寧に舐めて唾液を混ぜる。
 反射的な行動のようだった。
 それで、ああいつもこうしていたのかと知る。
 自分がそうするように仕向けたはずなのに、まるで西が別の男を知っているかのような錯覚に陥った。
 妙にイラついて、温かい粘膜から指を引き抜く。
「っん……、?」
「んな事、しなくていい」
 不機嫌な気配が伝わったのか、西は首を竦めて身体を縮めるようにした。
 まだ西の前を弄る為にその部分を開けただけで、全く服を乱していない。
 そのはずが、僅かにボタンの開いていた首元に酷く色香が漂う。
 露わになっている白い首に、口づけを落とした。
 何度も唇で挟むようにキスをして、時折舌を這わせながら跡をつけないように愛撫する。
 その度に西は快感に震え、跳ねるように反応する身体が愛おしくなる。
 そのまま前に手を回して相手のタイを緩めようと手を掛けた瞬間、小さく悲鳴が上がった。
「ッ、ヤ……! 嫌だ!」  
「オイ、西?」
「ヤ、もう嫌だ、……嫌……ッ」
「落ち着け、……おい!」
 逃れようと前へ手を伸ばす西の身体を反転させて、自分の方へ向かせた。
 そのまま強く抱き締めて、暴れる身体を押さえつける。
 短い呼吸を繰り返す身体を、ひたすらに捕まえておく。
 俺に怯えているのだから本当は離れて落ちつかせた方が良いのかもしれないが、どうしても離すことができなかった。
「……西」
「……」
 そのうち呼吸も整ってきて、深呼吸をひとつした西がやっと肩から力を抜いた。
 呼びかけると言い淀んだような少しの間の後、口を開く。
「……アンタが、前に」
 言い難そうな様子から、何となく予想はついていた。
「何がきっかけか判らないけど急に怒って、俺のタイを締めた」 
 ああだから俺の不機嫌な声音にそんなに敏感なのか、こいつは。
「本気で死ぬかと思った。そうしたらアンタはそれが気に入ったみたいで、服のまま俺を犯しながら何度もこれを引いて、……」
 中が締まるって言って遊んでた、と言うのを聞いて俺は深いため息をついた。
「聞けば聞く程とんでもない話だな……」
 少し考えてから、俺は西の手を取った。
 不思議そうに見上げる目に何も答えず、そのまま掴んだ手をタイのノットに掛けて、引く。
 するりとネクタイが解けて落ちた。
 白いシャツと、露わな首元だけが俺の視界に焼きつく。
「俺はそういうつもり無いんだが……」
「……オイ、何……」
「まあ、止める気がないあたりやっぱりお前にとっては同じなのかもな」
「は?……ちょ、ッ」
 シャツのボタンを外して、胸の上に吸い痕を残していく。
 首筋には触れるだけで、下へと移動するごとに強く跡を残した。
 ギシッ、とソファが軋む。
 西の身体をソファに横にして、腹部に顔を埋める。
 臍の窪みのあたりに舌を這わせたら肉の薄い腹筋が怯えるように痙攣した。
 それを見て、喉の奥で笑いを堪える。
 何だ、腹を食い千切られるとでも思ってるのか?
 さっき中途半端に刺激してそのままだった性器へ、同じようにキスを落とした。
 男のモノを銜えるのは確実に初めてな気がした。
 西も息を飲んで驚いているから、たぶん昔の俺はしなかった事だろう。
 なら、この反応を見るのは俺が初めてのはずだ。
「い、和泉ッ」
「大人しくしてろ、って」
 焦ったような声を上げた西に髪を掴んで引かれ、俺は一度相手を見上げた。
 見せつけるように舌を出して舐めてやると、顔を真っ赤にして目を逸らした。
 随分初心な反応だった。
 俺にこういうことをされるのは本当に慣れていないらしい。
 わざと音を立てて舐めていたら細い腰がだんだんと後ろに逃げていく。
 ばたばたと動く足を捕まえて、逃げた分だけ引き戻した。
「痛くはないだろ」
 足首を掴んだまま問うと西は無言で目を細めたが、それ以上動くのを止めた。
 足を開かせて肩へ担ぐと、それ以上はずり下がれなくなる。
 それからもう一度西の性器を口に含む。
 ビクビクと震えるのは快感だけではなく、怯えのせいで余計に敏感になっているようだった。
 根元に指を這わせながら口で締め付け吸い上げると、恐怖で萎えていたそれはすぐに硬さを取り戻す。
 泣きながら嫌だと繰り返す西が堪え切れず精を吐き出すまでは、そうかからなかった。







 目が覚めると、カーテンの隙間から明るい光が差し込んでいた。
 時計を見るとまだ早朝で、窓の外も比較的静かだ。
 傍らには西が気を失って眠っている。
 その身体を抱き締めるようにして俺も寝ていたらしい。
 西の頬には涙の跡が薄く残っていて、まだ赤い目尻に指先で触れた。
「……」
 西をベッドに移動させたのは、一度口でイかせて放心状態になっている時だった。
 制服は流石に皺になるからと比較的早い段階で脱がせてしまった。
 抵抗されて白いシャツだけはそのままの状態で、……西を抱いた。 
 思ったよりも身体は覚えているものだ。
 怪我をさせることなく、行為を進める事が出来た。
 西に触れる度に前の感覚を取り戻す。
 その記憶を辿るのは、戦闘のカンを思い出すよりずっと容易だった。
 例の箱の中に入っていたジェルで中を慣らすと、西はその感覚に覚えがあるのかすぐに大人しくなった。
 全てを諦めたような表情で目を逸らす西の様子に胸の中がチリチリと焼け焦げるような気分に陥る。
 それでも、抱くのを止める気にはならなかった。
 押し倒したまま太股の裏を掴んで足を開かせると、西は震えながら羞恥に頬を染めた。
 もっとそういう表情が見たい、という衝動が沸き上がる。
 どうやら俺は西の顔に反応があるのが嬉しいらしいと気付いてから、過去の俺と頭の中がリンクする。
 西が嫌がるのを知っていても執拗に言葉で煽ったのは、無反応を装う相手を恥ずかしがらせたかったからだ。
 別に羞恥でなくてもいい。
 涙でも、怒りでも、そういった表情をこちらへ向けるように仕向けたかった。

 それと、玩具の数が普通じゃない理由も判った。
 西の中は異常なほどに狭いと、入れてみてようやく理解した。
 俺のモノが入るようになるまで慣らすには、ある程度拡張する必要があった。
 だから始めにうつ伏せにさせてバイブや何かを入れてから始めていたんだろう。
 まだ正常な意識の働いている時にそんなものを突っ込まれるのは、西にとっては相当なストレスだったようだが。
『も、……ムリ、……ッいずみ!』
 痛みを与えずただ丁寧に愛撫を続け、言葉でからかうこともせずに抱いたら先に根を上げたのは西の方だった。
 金のリングはいくらねだられても着けてやらなかった。
 生理現象なのだから好きなだけイけばいいとそこに触れずにいたら、覚束ない手つきで自慰を始めた。
 そんなに他人の手で感じさせられるのが嫌なのかと呆れたが、それはそれで見ていて楽しめるものだったからと放っておいた。
 足を限界まで開かされて全てを俺に晒したまま、犯されて、泣きながら自慰をする西は途中からずっと涙が止まらなかった。
 その泣き顔が余計に俺を煽るとも知らずに、西は赦しを乞うように見つめてくる。
 当然、解放してやる事はない。
 俺が笑って顔を覗き込むと、ビクッと震えてすぐに怯えた視線に変わる。
 前の俺とは違う。だから、言葉で煽ることはしない。
 こいつが快感に慣れるまで、いくらでも奉仕してやるつもりだった。
 身体は既に快楽に落ちているクセに精神的には全く馴れようとしない西に、俺は再びハマりこんだらしい。


「……」 
 ため息を一つついて、天井を見上げた。
 ぐったりと横たわる西の身体は、頼りなく、小さく、俺が力を込めたら簡単に折れてしまいそうだと思う。
 その華奢な身体には、不釣り合いなほど強固な精神が宿っている。
 ……それにまた魅入られた。
 
 今度こそ間違えずに掴まえる事ができるだろうか、と俺はぼんやりそんな事を考えていた。








2011/05/16

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