イノチミジカシ | ナノ
▼隣人





私の安っぽい絶望感のようなものは割りと早く打ち砕かれた。それというのもその次の瞬間、私を夢中で殴っていた馬鹿が左側から右側に横飛びで吹っ飛んだからだ。

「てめぇ、女に手上げてんじゃねぇよ。さっさと失せねぇとただじゃ済まさねぇぞ。」

低い怒声が辺りに響き渡ると私も馬鹿も縮み上がってそいつを見つめた。
馬鹿は馬鹿みたいに慌てて逃げていって、そいつは呆然と座り込んでる私の前にしゃがんでドン引きしたような顔でおいおい大丈夫かよ……。と聞いたあと、大丈夫なわけねぇよなとボリボリと頭を掻いた。

「確か、隣の。」

「田所迅だ。入れよ、手当てしてやる。」

熊みたいな隣人の名前はどうやら田所と言うらしい。彼は嫌がる私に、なにもしねぇよ。と何処か的外れな安全保障をかけたあと自分の部屋に押し込んだ。

田所の部屋は男一人暮らしらしく散らかっていて、彼は部屋の床の上に散乱している雑誌を足で除けてスペースを作ってそこに私を座らせると、濡れタオルでゴシゴシと私の顔を拭った。

「……………痛い。」

「我慢しろよ。」

出血こそしていたが傷はそこまで深くなく、当分痣は残りそうだが病院に掛かる程ではなかった。

「ありがとう。お陰で殺されなくて済んだよ。」

「おう。女殴る男なんて録な奴じゃねぇからさっさと別れちまいな。」

田所は早朝の私たちのただならぬ口論を聞きつけ外に出て様子を伺おうとしたところ丁度私が殴られてるところを発見し思わず殴ってしまったそうだ。

「一応自己紹介しとく、名前はミョウジナマエ。21。」

「なんだ、タメかよ。」

「え、年上かと思ってた。」

「おっさん臭ぇっつーのかよ?」

「そこまで言ってない。」

田所は中々面白い男で、その後アドレスを交換した後彼は仕事へ、私は自分の部屋に戻った。
嵐の後の散らかった部屋で数ヵ月ぶりにカーテンを開けるとすっかり登りきった太陽が私を照らし眩しさに目を細めた。

それから朝の日の光を浴びてぐっすりと眠りについた。








bkm
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