イノチミジカシ | ナノ
▼トリコロールと熊


それからの一日は先日のお礼の品は何が良いだろう?という事を長い時間考えていた。
世間一般の常識なんて私の中には皆無だから、よくわからない。いろいろ考えた末ふと思い出したのは彼、田所迅があの強面でケーキ屋の箱を片手に帰宅するシーンだった。何でそんなこと覚えてるのだろうかとさらに考え込んでいれば、その時の彼の様子を見て子供の頃好きだったアニメの蜂蜜大好きな黄色い熊を連想してこっそりと笑ってしまったからだった。
お礼の品はケーキにしよう。そうと決まればすぐさま買いに行こうと頬にガーゼを貼ったままでかけたの三時間ほど前のことだ。

ショートケーキにモンブラン、ガトーショコラ。甘ったるい空気が立ち込めると思わず餌付いてしまいそうになる。
あんなに憧れだった色とりどりの洋菓子たちが今では好きなだけ買い漁れるのだと思うと誰のせいでもないけれどなんだか夢を壊された気分だ。
買い物にはそんなに時間はかからなかったが白昼のショッピングモールをボロボロの顔面の女が歩いているとやはり目を引くようでなんとなく居心地が悪い。
買い物の帰りに職場によると店長が私の顔を見るなり血相を変えて話しかけてきた。
その傷はどうしたのか。病院に行ったのか。など質問攻めにされ仕方なく事情を話ししばらく仕事を休む旨を伝えると困るよ、お客さんに悪いじゃない。
と渋られたがなんとか承諾してもらえた。そもそもこの顔面では仕事にならないだろう。
なんやかんやと用を足すうちに日が暮れて自室に戻る頃には私の体はくたくただ。

部屋に戻るなり冷蔵庫を開け数ある酒瓶の中からアブサンを取り出し一口口に含む。やはり疲れたときには酒だろう。
窓際に腰掛け夕日をぼんやり眺めながら煙草をふかしていると丁度帰宅する田所が小さく見えた。
く、熊が自転車に乗ってる。サーカスみたいとひとしきり笑う。どうやら私は彼がツボらしい。
部屋を出ると田所が丁度自転車を持ち上げ階段を上がってくるところだった。



bkm
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