ほんとうのこと



他人が自分をどう思ってるか?だとか、他人に好かれたいとかそういうことを考えるのは面倒だからやめた。
どんなに悩んでも他人なんて理解できないし無駄な労力を使いたくないからだ。何処かの誰かさんみたいに器用に生きることは出来なかった。

外は雪が積もり始めているだろう。納屋の中は薄暗くて窓もないから外の様子なんて見えないけど、隙間風の刺すような冷たさと風の音から吹雪が来ようとしているのがわかった。
早く此処から出なければ翌日には凍死体になって発見される羽目になる。
多少焦りを感じながらも地面から腰を上げて服の埃をはらった。
外側に鍵がついてるこの小屋は鍵をかけられてしまえば内側からは開けることができない。
いっそ蹴破ってしまおうか?先生に叱られるのはこの際仕方がないだろう。
そう思い、身構えたと同時に戸が開いた。

「…せ、んぞう。」

戸口には仙蔵がいた。仙蔵はばつが悪そうに俯いた。

「っ、くのたまが、此処から出ていくのが見えた。」
仙蔵の頬は走って迎えに来てくれたのか少し紅くなっていて、息は切れていた。
「行くぞ。じきに吹雪がくる。」

私の手を引くと仙蔵は忍たま長屋の方へ歩き出した。 
ただでさえも色白な彼の手は冷たく、冷えきっていて皹が目立ち、血が滲んでいた。

仙蔵の部屋に行くと文次郎はいなかった。彼のことだから修行だとかなんだとか言ってこの雪のなか腕立てでもしているのかもしれない。

「私は、正直で飾らない仙蔵が羨ましい。」

仙蔵は私に気を使ってか火鉢を私の前に寄せながら訝しげな顔をした。

「私は正直なんかじゃないぞ。」

仙蔵は溜め息を吐いて私を見詰めた。
私が閉じ込められたときも、私物を隠されたときも、いつの間にか傍に仙蔵がいて助けてくれる。
彼は、その度、もっとうまくやれ、と言う。
うまくやれ、と言うのは都合よく立ち回ることなのか、自分に嘘を吐いて相手に合わせて生きることなのか。
どちらにしても私は仙蔵のように器用には生きれない。

火鉢の温かさのお陰で悴んでいた手に感覚が戻ってきた。
私は隣に座る仙蔵に向き直り、彼の真っ白な両手を自分の手でつつんだ。
氷のように冷たい手がだんだんと熱を孕み赤くなっていく。

「吹雪が来るのに、何処にも居ないから捜してくれたんでしょう?有り難う。」

「偶然見かけただけだ。」
「嘘吐き。」

「何とでも言え。」

仙蔵がむず痒そうな顔をしてそっぽを向いた。

「うまくやれなくたっていいよ。本当はもう知ってるから、」

私が笑うと仙蔵は焦ったように手を引っ込めた。
襖が開く音がして鼻水を垂らした文次郎がくしゃみをしながら帰ってきた。












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