きみは、知らない。



頭の中で何度も何度も反芻する言葉は口に出そうとしてもなかなか声にならないもので、震える喉からなんとか絞り出そうと思うのだが如何せん、勇気が足りない。

片想いの年数を数えればどのくらいか想いを暖めすぎて自分でも最早腐りかけなのでは無いかと言うくらいで、それでも彼しか目に入らない私はやはり諦めることなど出来なかった。


授業終了後、保健室に行くといつものように善法寺伊作が書き物をしていた。
彼に絶賛片想い中の私は何かと理由をつけては保健室に入り浸る。
伊作はそんな私を嫌な顔一つせず迎えてくれる。

伊作は文机から視線を私に移すと柔らく笑った。
私は彼のこの笑顔が大好きだ。

「やぁ。ルイ、」

「また書き物?毎日お疲れ様。」

伊作は半ば呆れて言う私に苦笑いするとまた手元に視線を戻した。
私は伊作と背中合わせに座って本を読む。図書室から借りてきたこの本は仙蔵のオススメらしいのだが小難しくて私にはあまり理解できない。
ただ、私は自分の部屋では読書に集中できないと言う名目で保健室に来ているので理解できない本をただ黙々と読むしか私に残された道はないのだ。

「ねぇ、」

「なに?」

「伊作は此処卒業したらどうするの?」

襖から冷たい秋風が入ってくる。冬を越して春が来れば私たちは、忍術学園を卒業する。

「多分、僕は何処かで診療所でも開いてるよ。」

「伊作、あんまり忍者に向いてないもんね。」

そう言うと伊作の肩が少し揺れて、あぁまた苦笑してるんだなぁと思った。

「ルイは?」

「わかんない。」

「そっか、ルイのことだからこのままくの一になるのかなって思ってたんだけど。」

「もし、」

「ん?」

―もしも、私が伊作のこと好きだからくの一になりたくないって言ったらどうする?―

喉まで出かかった言葉を無意識に呑み込んだ。そんなこと言って何になる?結局彼を困らせてしまうだけじゃないか。

「、もし卒業してから会う機会があったら、また本読みに来てもいい?」

「勿論さ。」

私が彼に想いを告げることは多分この先一生無い。

「っ、」

「ルイ?…泣いてるの?」

優しい伊作は振り向いて焦ったように私の頭を撫でる。小さな子供あやすように私を抱き締め大丈夫だよと慰めてくれるけど、胸は締め付けられる一方で叶うことの無いであろう片想いを私は一生背負い続けるしかないのだろうと悟った。






   


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