当屋敷の執事

「申し遅れました。私はテレンスと申します。当屋敷の執事です。」

廊下を歩いていると彼が突然自己紹介しだした。私も慌てて自己紹介する。

「私はアイザです。なにかとご迷惑をお掛けすると思いますが宜しくお願いします。」

テレンスさんは笑って

「そんなに畏まらなくても良いですよ。」

と言うと屋敷についての諸注意等を述べた。

「私は本当に此処にいても良いのでしょうか、」

「良いのですよ。あの方が許可したのですから、居て貰わなければ此方としても困ります。」

私はあの人のことをなに一つ知らないと言うのに、

「嗚呼、此処ですよ。」

テレンスさんが止まったのは私が初め寝かされていた部屋だった。

「此処にあるものは好きに使っていただいて構いません。何か必要なものがあれば私に言ってください。」

そう言ってテレンスさんは部屋を出ようとすると何か思い出したように私に振り向き、

「くれぐれも逃げようなどとは思わないように、」

と付け加えた。


私がこの屋敷の主について知っていることはただ一つ、彼がとてつもない力の持ち主だと言うことだけであろう。

無駄に柔らかいベッドの上に横になる。
こんなに歩くのも人と話すのも久しぶりだと思った。
時刻は真夜中であるが、見知らぬ世界への好奇心が未だ覚めやらぬ私は言い知れぬ不安と心地好い期待に胸踊らされるようだった。


夜明けにはまだ早い。






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