あたしのお相手は、何を隠そう、スカル団ボスのグズマさん。…え?怖そう?……ううん、そんなことは全然ないですよ?た、たぶん………
皆さんのグズマさんのイメージって、こんな感じでしょう?
「…おいかなこ!」
とか言いながら、壁際に追い詰められて、
「……んんっ!!」
なかなかに激しいキスをされて、
「お楽しみはこれからだな…?」
とか言いながら妖しい笑みを浮かべて迫ってきて…。でも、実際は。
「……グズマ、さん?」
「……ああ、かなこか」
久しぶりに会えたのにな…そう思ってるのは、あたしだけなのかもしれない。かなこはシュンと肩を落とし、ボーッと海を眺めていた。
「……」
「……」
グズマさん、色々あったし疲れてるのかな…そう思えばこの重苦しい空気にも耐えられる気がしたが、これではデートの意味がまるでない。あたし、帰りますとボソッと呟くも、あまりいい反応は返ってこなかった。
「……かなこ」
「あっ…、ハイ」
それから数日後。こないだよりも笑顔の彼に少しだけ、胸を撫で下ろした。幸いひきつり笑いも気づかれていないようで、着いてこいよ、そういう背中を追いかけた。
「こないだは、悪かったな…グズマさまともあろう人間が、ボーッとしちまってたな!」
「いえ…。何か、疲れてるのかな?とか色々考えちゃって…」
また沈黙が流れる。あれだけ威勢のいい発言をしていた男とはまるで別人で、果たしてこれをデートと呼べるのかも定かではないし、そもそも好きだともつき合おうとも言われてはいない…が。
「…許せとは言わねえ、けど、これでチャラにしてくれや」
「……っ!?」
引き寄せる力は強引。だが、思いの外優しく抱きしめられて。かなこの思考は見事に停止する。
「生憎、女を好きになった事はねえから、今の自分の気持ちがわからねえ。…情けねえ大人だな、オレさま」
「そんな事……」
「……かなこ」
ふわりと香ったタバコのにおいが遠のく。それだけで何だか、きゅっと胸が締め付けられた。
「…おまえは、オレのモンってことで、いいよな?かなこ」
「……は、はい!!」
微笑みあう表情は今まで見てきたそれとは異なっていて、とても穏やかだった。確かに初めは危険な言動の多い青年だったが、その根は純粋で優しく、不器用なのだと、改めて思い直したのだった。