「今日はこれに乗りましょう!」
そう言ったかなこの後ろから顔を出したのは、ケンタロスだった。博士の追及を逃れるためとはいえ、せめてムーランドにしてほしかったと思うも、ここで断ると機嫌を損ねてしまうかも知れないと思い、仕方なく了承した。
「グズマさんは後ろに乗ってくださいね!」
「……おう」
思いの外距離が縮まることにかなこは動揺しないのだろうか。そんなことを考えながらそっと後ろからその華奢な背中を抱きしめた。
「……な、何か、その感じ、緊張します……」
「……ああ!?文句あんのかこら」
「そ、そうじゃなくて!その……グズマさん、大柄だしなんかもっとこう、ガシッてするのかな?とか思っちゃって……」
全く自分でも何を言っているのかわからない。そのくらい動揺してしまったが、ケンタロスが早く出発したそうだったので、とりあえずその場を離れた。
「……すげえスピードだな!これはこれでありじゃねえか!!」
「えー!?何ですかー!?」
ハウオリシティを抜け、2番道路の先に広がる辺りまで走ってきた。風を切る感覚が気持ちよくて、ポケモンに乗るのも悪くねえな、ほんのりそう思った。
「こうしてっとな、島巡りやってた頃のこと思い出しちまうな」
「グズマさん……」
その横顔はどこか切なげで。楽しい思い出ばかりのかなこに対して、グズマはいろいろと苦しみながら旅をしていたのだろうか。
「……いや、心配には及ばねえ。おまえがいりゃあよ、これから先、楽しいことしかないんじゃねえの」
「……はい!いっぱい、楽しいことしましょうね!」
「……ああ、そうだな」
傾き始めた夕陽が二人を照らす。その眩しさに目を細めながら、アローラの風を感じていた。
「……さあ、オレさまの時間がやって来たな!」
何だか嫌な予感がした。と言うのも、グズマが不敵な笑みを浮かべていたから。まさか仕返しとかされるんじゃないか、そう思ったが、案の定的中した。