「……来いよ」
「え……?」
「どうせ帰るんだろ?じゃあついでじゃねえかよ、寄れ」
2番道路でリザードンを見送ると、グズマがそう声をかけてきた。せっかくのチャンスで、これを逃したらもう話せなくなるかも知れない…そう思えば自然と彼の背中についていった。
「ほらよ、エネココアしかねぇけど」
グズマの家に向かうのかと思えば、今はモーテルに泊まってる、そう返ってきた。彼の好きなエネココアは、自宅用のものであっても味は忠実に再現されていて、どこか懐かしさを感じさせられた。
「え……っ!?ちょっ、そんなに見ないでくださいよ……!」
猫舌のかなこにはできたてのココアは熱かった。ふーふー冷ましながら飲んでいるとふと、視線を感じて声を上げた。
「……何だよ、減るもんじゃねえ、別にいいじゃねえか」
グズマの目はかなこのエネココア(正確に言えばエネココアを飲むかなこの唇)にロックオンされていた。それが何だか気恥ずかしくて、不意に目を逸らした。
「しっかしよぉ、おまえにはことごとく負かされるな!いつまで修行すりゃあ敵うんだか」
「ふふ、そうですか?」
そう話すグズマはとても楽しそうで、つられて笑顔になった。それから最近のことなどを話して和やかムードになっていたが、聞きたいことは聞いておかなければならない、そう思った。
「……あ、あの!」
「急に改まってどうした」
「そ、その……グズマさん、その、ルザミーネさんのこと………」
「……はぁ?代表?」
唐突な質問にグズマは一瞬考え込んだが、なるほどという具合にこう答えた。
「ああ、代表とは別に何もねえよ。ただあの人は、オレさまを認めてくれた唯一の大人だったからよ、何つーか、母親みたいなもんじゃねえか?よくわかんねえけど」
「え……?そっか、よかったぁ!」
……。グズマは一瞬固まっていたようにも見えたが、どうやらかなこの勘違いだったようで陽気にこう言い放つと、そのまま出ていってしまった。
「次こそはおまえをブッ壊してやるかな!オレさまは、明日からバトルツリーで特訓するから邪魔しに来んなよな!」
「あ……っ、グズマさん、鍵……っ!」
置いていかれたかなこは、この状況を理解することができなかった。自分はフラれたのか、それとも……。それから、気になって眠れない日が続いた。