「………」
家に帰ってそっと息を吐いた。今日は新旧チャンピオンの対談とあって、スタッフたちは前日からせわしなく準備をしていたと言う。そんな日に限って朝帰りだしそれに…。
「どう?アニキは」
「どうって、なにが?」
ホップはネズさんの、そしてあたしはマリィの部屋に寝ることになった。交代でお風呂をもらうと、扉を開けるなりそう聞かれたからキョトンとしてしまう。そんなあたしに構うことなく、マリィは続ける。
「男として見れる?」
「おっ、男としてって…」
もちろんその意味がわからないほど初じゃない。異性として…つまり、ネズさんとつき合えるか、そういうことでしょ?
「アニキは自分の気持ちを押し殺すタイプやけん、だから変な女の誘いに断れなくて、あんなことになったばい」
「あんなこと……?」
全部知ってるわけじゃなか、そう言いながらマリィは今回の騒動の発端について話してくれた。その女の人に迫られて関係を持ったのは事実だけど、妊娠させるようなことはしてないと言う。でも雑誌で読んだ、いくらちゃんと避妊しても、100%はない、って…。
「身籠ってるかどうかもわからんよ。それにあの女、アニキだけじゃなくて別のシンガーたちともそういうことしてるったい」
ファンに手を出すこともある。キバナさんも言っていたけど、実際に聞くとちょっと軽蔑してしまう。別にネズさんが誰と何をしてようと勝手だけど、愛がなくても、求められたらそれに応えるっていうの?
「アニキのこと、嫌いになったと?」
「……うえっ、あ、その……」
「これだけは言わせて。誰でもいいわけじゃなか。人の頼みを断れないようなよか男やけん…。だから許さんね、そんなアニキの性格を利用したあの女を」
正直、こんな軽い人だと思ってなかったから、この先どう接すればいいのか迷う。でも、親友のアニキだから。そう簡単に嫌いになんてなれるはずがない。それに…、ひねくれた言い方はあったかもしれないけど、ネズさんがいつもあたしのことを気にかけてくれていたのは事実だもんね。