「オマエ、知ってるか?ネズさんの家」
「あ、うん、実は…」
こないだのライブの帰り、ダンデさんが迷ってナックルシティまで連れてってくれなかったことを話したら笑ってた。あんなに完璧で素敵な人なのに、人間ひとつくらいは欠点があるもんなんだ。そう思わせてくれる存在だよね、ダンデさんって。あたしがチャンピオンになれたのだって奇跡なくらいだけど今、いきいきと仕事してるなら、引退させてあげてよかったのかも。
「けど、いきなり押しかけたら失礼だよな…どうする?」
「マリィに聞いてみようか?」
いざネオンに照らされた街、スパイクタウンに足を運ぶと気後れしてしまう。この場所がそうさせてるのか…それとも、目的がない限りはまだ、ネズさんに会うのが怖いのか。
「きみたち、ここで何してるんです?」
暗闇からふと現れたのは、まさに捜している人だった。黒服に身を包み、ニット帽をかぶる姿はいつもと違ってかっこよく見えた。決して高身長とかじゃないけど、細身だからなのかな…、ジムリーダーの衣装の時と、全然違う…。
「ネズさんって、意外とおしゃれなんだな!」
「意外とは余計ですよ。少なくともおまえよりはセンスあるよね」
ああ、もしかしてネズさんは、毒舌なだけなのかもしれない。あの時あたしに言った言葉も、実際にそう思ってるというよりかは皮肉が混じっていたのかも。
「何ですか、その笑いは」
「え?ネズさん、愛されキャラなんだなぁって」
「……それをおれに言いますか。きみには負けますよ、かなこ」
まただ…またこの笑顔を見ると、胸が締めつけられるようにキュンとする。ねえキバナさん、これが恋なのかな?それとも、あの時キスされていたら何かが、変わっていたの……?
「おまえたち、逃げますよ」
和やかなムードは一転、緊迫した声色で我に返った。背後にはリポーターがずらりと並んでいて…。でも、彼らを簡単に撒けるかのように笑うとネズさんは、あたしたちを連れて夜の街へと紛れ込んだ。