「よお、かなこ」
あれから数日経ったけど、キバナさんは相変わらずだった。予定通りエキシビションマッチを終えて、わざとみんなのいる前でウインクなんかかましてくる辺り、よっぽどあたしをからかいたいんだと思う。あんな反応したからなんだろうけど…、相手がこんなイケメンなのに照れない女の子がいるわけない。本当、罪深い。
「さすがだぞ!相手の弱点を、バッチリ把握してるんだな!」
聞き覚えのある声。二人同時に目を向けた先にいたのは、ホップだった。公式戦でもないのに顔を出してくれるなんて嬉しいけど…、勉強の邪魔してるんじゃないかと思うと申し訳なくも思えてくる。
「キバナさん、絶対オマエのこと好きだよな」
「えっ!ないないない!からかわれてるだけ!」
ホップには目的があった。だから、ここで試合をしてるあたしを迎えに来たんだ、って。
「オレ、ネズさんが心配なんだ」
あの記事を見たとホップは言った。もちろん、あたしも同じ気持ちだけど。でもよく考えたら、ネズさんが本当はどんな人で何をしてるのかなんて、上部だけでしか知らないでしょ?下手に首を突っ込んで、また嫌がられたらどうしよう…そう思うと結局、何もできないでいた。
「大丈夫だぞ、元気な顔見たらそれで帰るから」
「え……?」
「つき合い長いからな!かなこの考えてることぐらいわかるぞ?」
ホップは優しい。いつだってあたしのことを想ってくれる。それは、誰にでもできる特技じゃないよ。今度ネズさんのライブがあったら、ダメ元で誘ってみようかな。デートするなら、キバナさんじゃなくてホップの方が……。
「乗るよな?そらとぶタクシー」
「う、うん!乗る!」
変なこと考えてたせい?何気ない会話ですらドキドキしてしまう。スパイクタウンに着くまでの間ずっと、モヤモヤしたような不思議な気持ちを抱えていた。