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“ネズ、ファンの女の子を身籠らせたか”

そんなような記事が載ったのがつい先日のこと。街はジムチャレンジに向けて慌ただしくて、今日はヤローさんとのエキシビションマッチを終えたところ。いつものように試合後に談笑しているとふと、こう聞かれた。

「あのネズさんに限って、あり得ませんよね?マリィさんもいるし…」

ヤローさんが何を言おうとしているかは明白。あり得ないです、そう返事をして話は終わったけど、一部ではすごいことになってたんだ。

『かなこ?今さ、スパイクタウンの近くまで来てんだけどよ!』

電話の向こうから雑音がする。よっぽど人が多く集まってるのかもしれない…。聞きにくいことを正直に伝えて、ナックルシティで落ち合うことになった。

「ダンデから聞いたぜ?オマエ、ネズに惚れちまったんだってな」

口を開くなりストレートな質問するね?確かにあの笑顔にきゅんとなったのは事実だし、あれからずっとネズさんのこと気になってるけど。それが恋というものなの?こっちが教えてほしいくらいだ。

「ジムリーダーのみんなは、あり得ないって言ってます」
「まあな?さすがにオレさまもそこまで はしないと思ってるけどよ。ただ、あいつに女関係のトラブルがつきものなのは事実だぜ」

シンガーだから、キバナさんは言う。ギョーカイ人とやらは大変だとも。あたしたちのように試合で生計を立てていくようなジャンルとは違って、ライバル同士の足の引っ張り合いなんて当たり前。スキャンダルは日常茶飯事。売れるためにはファンと関係を持つ人も少なくないとか。

「………」
「いいやつだぜ?あいつは。けど、恋人にすると厄介だろうな」

ネズさんはジムリーダーを引退して好きなことをやれてるから、毎日がハッピーなんだと思ってた。でも実際は、あたしが想像する以上に面倒な世界なんだ…。それなのに輝いて見えるのは、彼がそういう部分を全部ひっくるめて、音楽に還元しているからなのかもしれない。

「かなこ、生クリームついてる」

え…そう思った時にはすでに遅かった。恋人にすると厄介。その言葉が頭でぐるぐると回ってて、顔が近づいてくる気配に気づかなかったなんてどうかしてる。照れて目を合わせることができないあたしを見つめる眼差しは、彼女に向けるそれなような気がして。さらに熱がこもった。

「おい、マジ照れすんなよな!なんかオレさまが悪いことしたみたいじゃねえか」

何それ…誰にでもこんなことするの!?あなたにとっては平常運転?唇じゃなくても頬になんて…、一瞬でもドキドキした気持ちを返して。

「なんでそんな嬉しそうなんですか……」
「ん?それはオマエが、オレさまのことを男として意識してくれたからだろうな?」

確信犯。悪戯な笑顔がそれを物語ってる。一体どれだけの女の子を落としてきたんだろう、この人は。絶対好きになんかなるもんか!あたしの心の中で、キバナさんに対して変な闘志が燃やされた瞬間だった。


bkm
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