「ダイマックスを使わずとも、おまえも客もヒートさせますよ」
シュートスタジアムで定期的に行われているトーナメントには、ジムリーダーやチャンピオンの他に、チャレンジャーだったり元トレーナーだったりも参加することができるから。ライブをやってて忙しいというネズさんも、こうしてたまには顔を出してくれる。
「楽しみにしてますね!」
今日は久しぶりのマッチアップだ。来てくれても途中で負けてしまう可能性もあるから。もちろん…、あたしはここまでどんな試合でも無敗だけど。
「きみと戦うと、新しい曲を作りたくなります」
「……へ?」
明日は朝から対談。だから早く帰ろう…そう思ってたらふとネズさんに声をかけられた。あんなこと言われたし、正直なところ避けられてるんだと思ってたから。こんな風に話しかけられるなんて意外だ。
「気が向いたら来てください、チケットを送りますよ」
「えっ?い、いいんですか!?」
あたしがちゃんとネズさんの歌を聴いたのはシュートシティ駅。悪いリーグスタッフを見つけるためにゲリラ的に行ったものだったけど、すごく胸に響いて、心を掴まれた。バトル中のハイテンションでごきげんなのもかっこいいけど、さすが哀愁のネズって呼ばれてるだけある…綺麗で、それでいて力強くて。音楽には全然詳しくなかったのに、最近はCDや雑誌を手に取ることも増えたなんて、もしかしなくてもネズさんの影響だよ。
「そんなに喜ばれると困りますがね。大した内容じゃねえですよ」
「ご謙遜を!あんなに上手なんですから、絶対楽しいに決まってます!」
あ…。ネズさんの笑顔が優しい…。たったそれだけのことなのに、胸がきゅんとする。温かくなっていく。でもこの気持ちが何なのか、今の段階では上手く言葉にできなかった。