認められし者
ヒロイン:剣盾の女の子


「ソッドさん、よろしくお願いします!」

そう声をかけてきたのは、現ガラルチャンピオンのかなこだった。ダイマックスの一件で多大な迷惑をかけたというのに、かなこをはじめ関わった人々は想像していたよりもずっと優しかった。お詫びも兼ねてこのガラルスタートーナメントのスポンサーとして協力するのはもちろん、せっかくだからとエントリーまでさせてもらって、言わば至れり尽くせり。優勝なんて高望みをするつもりはない。自分に実力が足りないのは、他のメンバーを見て重々承知の上だから。だが、ひとたび彼女に声をかけられれば、ほんの少しだけ夢を見てもいいのだろうか。

「ワレを選んでくださって、とてつもなく感謝ですよ!」

テンションが高すぎやしなかったか。若干ではあるがかなこが引いていたような気もした。だが、試合が始まれば恐らくそれどころではないだろう。必死になってかなこの足を引っ張らないような技選びをしなければならないのだから。自分なりにポケモンを愛し、研究を重ねて強くなってきたつもりだが、チャンピオンに軽く捻られたのは記憶に新しい。

「……どうしました?」

ドキッ。胸の奥に何か、今までと違う感情が生まれたような、そんな感覚を覚えた。この人にお仕えする…イメージ的にはそれに近かったはずなのに。側で見ているだけでは足りない、そんな欲望が見え隠れして咄嗟に頭を揺らした。

「勝者、かなこ&ソッド!」

余計なことを考えている間に試合は終わっていた。案の定かなこのポケモンたちにお世話になるわけだが、彼女の方はまるで気にする様子もない。自分をパートナーに選んだ時点で全て背負い込まなければならないことは理解しているのだろう。さすがはチャンピオン…どんなに不利な状況といえども決して弱音は吐かない。だからこそファンになったわけだが。

「ワレのガチ用のポケモンも、お役に立っていますでしょうか?」
「ふふ、もちろんですよ。それより、敬語、使わなくていいですよ?あたしの方が年下だし…」

ああ、またあなたはそうやってセレブリティな笑みを浮かべるのですね…自嘲気味に笑うと、2回戦に向けての準備を始めた。だが…、集中できないのだ。髪を耳にかける仕草、瞬き、それからあくびを手で隠すようなところまで全て。その一瞬一瞬から目が離せなくなっていた。

「ソッドさん…?行きますよ?」
「ええ、参りましょう」

そして、何事もなく振る舞うのだ。貴族と言えども普通の男。しかしそれは勝負の場においては必要のないもの。どう切り替えられたのかは自分でもよくわからなかったが、2回戦は先ほどよりも互いの気持ちを通わせられたと実感できた。

「ワレワレの優勝まで、あとワンステップですよ!ご準備ができましたら、最高のフィナーレを飾りにいくとしましょうぞ!」
「……はい!」

何よりも美しい笑顔。まさに今この瞬間、自分だけに向けられているものだと思うとこの先、どんな試練が待ち受けようとも乗り越えられる気さえするのだから不思議だ。今はまだ、この微かに芽生えた気持ちに名前はつけないでおこう。抑えきれぬほどに大きくなってしまってからでは遅いのだから。見事二人は優勝し、最高のフィナーレを飾ることができた。たとえもう二度とパートナーになれることはなくとも、この日の出来事をソッドは、一生忘れることはないだろう。


bkm
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