「今日も最高だったぜ!」
久しぶりのネズさんのライブ。デモに入っていた新曲も交えたラインナップはダンデさんじゃないけど最高の一言。何人でも呼んでください、そう言われて誘ったキバナさんとソニア。異色のメンバー4人での来訪は、エール団をはじめネズさんのファンたちからは注目の的だった。
「ずいぶんとノイジーだね、ここは居酒屋かなにかですか」
この皮肉にも慣れてきた。あの噂のせいで人間性を疑いかけたけど、これだけたくさんの人に愛されてるシンガーがあんなことするはずない。なにを隠そう…、大好きなマリィのアニキだもんね。
「本っ当よかった!ネズくんのライブ!一度聴いてみたかったんだよ、ユウリのおかげ!本当ありがとう!!」
「あ、うん…」
ボーッと会場に残る音を楽しんでたらいきなり強く手を握られた。こゆとこソニアって乙女でかわいいなっていつも思う。それに比べてあたしは、悪天候の中ぐちゃぐちゃになりながらコートに立ってるし、ガサツだし…。もっとおしゃれでもしたら、女の子らしくなれる?ダンデさんには誤魔化されちゃったけど、女としては見れない、そういう回答だったのかも。
「ほら、行くぜ?かなこ。食うだろ?飯」
「へっ?あ、はい!」
いつの間にか5人でご飯の流れになっていたみたいで、連れられた先は大勢ならお決まりのお店、ステーキハウス おいしんボブだった。懐かしい…ここ、ソニアとホップと一緒に来たんだよね。それはもう過去のことだけど、忘れられない大切な想い出。
「いただきまーす!」
チン、とグラスの音と共に遅めのディナータイムが始まる。さすが男子3人は食べるのが早くて、もうおかわりまでしちゃってる。その様子に二人して目を合わせて微笑み合う。たまにはこんな風に外食するのも悪くない気がした。
「ところでさあ、ネズくんって」
「…面倒な話ならお断りですよ」
「もう、そうじゃなくって!あんないいラブソング書いてるけどさ、いるの?好きな人」
唐突だなって思った。そういえばシーソーコンビの一件の時、ソニアとネズさんって初対面だったけど、それなりに絡みあったっけ。てっきりダンデさんとつき合ってるんだとはじめは思ってた…でも、彼の今日の様子を見る限りそれはなさそう。
「好きな人、ね。大抵のシンガーは実体験を歌にするとも言いますから。あながち間違いじゃねえです」
………え。あんな事件があったから、てっきり被害者のイメージになっちゃってたけど。ファンに恋をすることももしかしたら、あるのかな…なんか、そう考えたらすごく、モヤモヤしてきた。