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「〜♪」

ネズさんがくれたデモ片手にシュートスタジアムに向かった。耳馴染みのいいバラードナンバーで、真っすぐな歌詞が胸に響いてくる。まるで彼の人柄を映し出しているようで、それでいて強く誰かを想ったメッセージのようにも聴こえて。朝から幸せな余韻に浸っていた。

「今日はゴキゲンだな、かなこくん!」

オーナーの仕事を終えて来たんだぜ、そういうダンデさんと共にバトルコートへ向かった。あたしの試合はないけど今日は、実力者の集まるトーナメントが開催される。ジムチャレンジ前の最後の調整とあって、みんな余念がない。

「……聞いたぜ、ネズのこと」

あれからいろいろ考えた…、カフェであたしの目を見て自分は無実だとはっきり言い切ったネズさんのこと、疑ってしまうのは違う気がする。…だから、あの報道はきっと嘘。そう伝えると満足そうに微笑むのは、自分の友人を信じてくれたあたしへのお礼なのかもしれない。チラッとその横顔を盗み見ようとしたら、ばっちり目が合って思わず目線を外した。

「珍しいな、キミがそういう反応をするのは」
「あ、あたしにだってそのくらい…」
「いいや。今までのキミなら、オレを男としてではなく、元チャンピオンという目で見ていたからな」

あ…。ふとキバナさんの言っていたことを思い出した。男として意識してくれて嬉しい、そう言われて軽い人だと思ったけど、誰でも同じような気持ちになるのかな。それが、特別かわいいわけでもなくて、何の取り柄もないあたしだったとしても。…もしかしてチャンピオンだから?

「ねえ、ダンデさんは、チャンピオンから好かれたら嬉しいですか?」
「?チャンピオンから好かれて嬉しくない人間はいないと思うが…、かなこが言いたいのは別の意味だろうな」

急に呼び捨てされてドキッとした。…曇りのない瞳。ネズさんともキバナさんともまた違う輝きに、胸が揺れそうになる。

「さあ、見ようぜ?彼らの試合を」
「……はい、そうですね!」

今はそんなこと考えたってしょうがない。試合開始までの間、今年エントリーしているチャレンジャーの情報をチェックしながら、集中した。


bkm
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