あたしが夢見た世界は、想像を絶するものだった___
「はい、こっち向いてー!」
「次はこっちにお願いします!」
カシャカシャと鳴り響くシャッターの音。無敵のチャンピオンと呼ばれたダンデさんは、ポケモンが強いだけじゃなく、スポンサーから来る数々の仕事もこなしてたと聞いた。ガラル地方の英雄である最強トレーナーを倒したあたし…かなこには、とてもじゃないけど真似できない…そう、実感している真っ最中。
「疲れたぁ」
「かなこ、まだまだだな!」
「そういうホップはスマイル炸裂だったねぇ」
隣の家に住むホップは、真っすぐで、純粋で。アニキ、アニキってダンデさんの事大好きな…、優しくて強くてかっこいい、あたしのヒーロー。
「帰るぞ!」
「うん!」
撮影の仕事を終えて、ハロンタウンの自宅までそらとぶタクシーに揺られて帰る。こう言うと仕事ばっかり?と思うだろうけど…、実際は。
「アニキ、またバトルタワーに泊まるんだってな」
「あそこがお気に入りだもんね」
あたしの知らないところでダンデさんは、スポンサーからの面倒な仕事をあたしの変わりに引き受けてくれてるみたい。表向きはバトルタワーに籠りっきりの、勝負が好きすぎるオーナーなんだけど…、ほんとは違う。
「ダンデさん、疲れてないですか?ほんとに」
「もちろんだぜ!オレはキミとは違って、大人だからな!」
いっつもそう言う…ジムチャレンジの頃は大人、大人って言われても気に留める事すらなかったけど…、こうしてチャンピオンになって、エキシビションマッチで激闘を期待されるようなすごいトレーナーになると、大人なんて括りにしなくたって、立派に仕事できるのにって思っちゃう。
「今日も、寄ってくよな?オレの家」
「研究所じゃないんだ!なら、行く!」
研究所には若くて美人で、ダンデさんと同期のしっかり者。でも時々、おっちょこちょい…そんなソニアがいるんだけど。
「何でだ?ソニア、オマエが来たら喜ぶぞ?」
「いーのいーの!ソニアに会うとすぐ、あれはだめ、これはだめって言われるから」
…そう。チャンピオンになってメディアへの露出が増えたからって、おすすめの化粧品だとか美容法だとかをガンガン押しつけてくる。それと、恋愛しろって。
「かなこに足りないもの。それは、恋だね!恋!」
「えーっ!まだ、早いよ」
「恋に早いも遅いもないよ!どう?ホップとか。いい男じゃない?ダンデくんに似て」
「……なっ!あるわけないんだぞ!かなこが、オレなんかを選ぶわけ…」
チャンピオンになって、知名度と絶対的な強さを手に入れた。初めてダンデさんに勝った時は手探りだったけど、今なら胸を張って強いと言える。だから正直…、恋愛なんてしてる暇ない。そもそも、恋って何?
「…そっか。何かソニア、寂しそうだったからさ…気が向いたら、顔を出してくれよ。オレも大歓迎だぞ!」
「うん!それより、お腹空いちゃったぁ」
ホップの家でいつものようにバーベキューをしながら、頭の片隅では明日のエキシビションマッチの事を考えていた。