09
「悪くないんじゃねえか?」

今日は、ネズの新曲のデモを聴きにスパイクタウンに来ている。しかし妹の人気はすげえな。あんなに街の外にファンが集まってるなんて思ってもみなかったぜ。

「なあ、ネズ」
「何ですか?おまえが変だと言おうとも、この曲は発表しますがね」
「その前に、マリィのことだよ。あいつのファンの中に、ちょっとヤバそうなヤツを見つけてな」
「……しばきますか」

一瞬で目の色変えやがった。やっぱ怖いぜ、あくタイプは。まあ、マリィもあんな感じだからな、ひと睨みすりゃビビってファンやめるかもしれねえが。

「ところでおまえ、誰かに恋でもしてるんですか?」
「……はあ!?いきなり何だよ」
「別に理由とかねえです。ただ、この曲を聴くおまえの顔が、切ない気がしたので」

そう、こいつの新曲には、片想いしてる女に向けた歌詞がつけられていた。哀愁のネズとか呼ばれてるし、恋愛の曲なんかザラに書いてんだろうけど。妙に胸に、刺さった気がした。

「てかオマエこれ、実体験だろ。無駄に生々しいよな?」
「さあね。あまり推測しないでほしいよね」
「オマエの恋愛事情とか知らねえけど、いい歌詞書くよな。ジムリ辞めて、好きな音楽に集中できてるから、充実してるってことだろ?」

オレがそう言うとネズは笑った。普段は血色悪いしメイクもすげえから伝わりにくいが、こいつの笑顔はなかなかに爽やかだ。もっと笑え、いつもそう言ってんだけどよ。

「おれは基本笑わねえですよ。気性が荒いからね」
「それとこれとは関係ないだろ。面白いことがあれば笑えよ」
「なら、おまえに頼みますよ」

どうもなぁ、こいつは面倒見がいいせいなのか、色々と不利な気がすんだよな…。このラブソングの相手が誰なのかは聞き出せなかったが、人知れず誰かに恋をしたシンガーは最強。柄にもなくそう思った。


bkm
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