「さっきの事…本当に何もしていないんだよね?」
「ああ、もちろん。親友のきみを裏切るような真似、このわたしがするとでも…?」
彼はそう言った。けど、乱れた姿で横たえられていた彼女の様子からして…、何もなかったワケがない。それをあのときの反応が物語っていたから。かなこちゃんは他に、男に触れられたことを全て話してくれた。なのになぜ…、ミクリとの間にあった出来事はほとんど誤魔化したんだろうか…そんな些細な事が今でも、ボクを苦しめている。
「ダイゴくん……?」
「……っ」
「どうかしたのか?まさか、ミクリくん……」
ワタルさんがひどく心配そうな目を向けてきたから。ボクは、洗いざらい話した。
「なるほどな……。それにしてもよく、許したな、感心するよ」
「……ボクで遊んでいますよね?ワタルさん」
そして冒頭に戻るんだ。こう言うと失礼だろうけど…憎たらしい笑顔が妙に子供っぽく思えた。それが、かえってワタルさんという人との距離を詰めてくれたようにも思えたんだ。
「ただ…彼女は、ミクリに手懐けられたんじゃないかと思って、ボクは時々、自分を責めるんです」
そう言うとそれは違うだろ、って。全く…、この人のお節介さにはいい意味で溜息が出るな。
「安心しなよ。かなこちゃんは確かに魅力的な女性だから、男はみな放ってなんかおかないだろう。けど、それが乱暴な真似をされるということではないし、それだけ騒ぎになった以上、かなこちゃんとミクリくんの間にも、同じことは起きないんじゃないかとおれは思うけどな」
「そう、ですね…ありがとうございます、ワタルさん」
肩をトントンと叩いてくるワタルさんは兄のようだった。うん…年は同じくらいのはずだけどな?まあいいか。それから、ワタルさんの結婚願望とか、どうもチャンピオンに勝ったという女の子が気になる、だとか、他愛もない話をして、家まで貸してもらえることになった。
「狭いけどな…ゆっくりしてけよ」
「いえ。ボクの家の方が狭いですよ!石以外、何もなくて」
そう言うと笑っている…ワタルさんにも、コレクションしたくなるものの1つや2つもあるだろうけど。ボクが石に興味を持ったきっかけはまた、違うところで話してもいいよ(誰も聞いていないとか悲しいことを言うのはどこのどいつだい?)。