麗さんから
長かった一日が終わり放課後となった。帰りのSHRの挨拶と共に教室を飛び出した赤也は、いつものように部室へ走って行く。立海が誇るテニス部の三強に強い憧れを持っている赤也にとって部活の時間は、練習が出来ると同時に三強の技も間近で見れるので、一秒も足りとも無駄にしたくないのだ。
「ちわーっ……ス、?」
部室のドアを全力で開け元気よく挨拶した赤也だったが、中の雰囲気に負けて思わず口ごもる。首を傾げながらも、近くに居た丸井にささっと駆け寄った。
「どーしたんスか?」
「真田だよぃ。見ててみな」
「真田副部長?」
丸井が笑いを堪えて指差した先には、部室内をウロウロしている真田の姿。普段の彼には珍しく落ち着きがないので、もしかしたら今から何かあるのだろうか。
「ねぇ真田。うざい」
「なっ…幸村、うざいとは何だ!」
「少しは落ち着けよ。俺の跡部が来るんだから」
「っ違う!跡部はお前のではないだろう!それに物扱いするな!!」
「じゃあ誰のなの?」
「そ、れは………お、俺のだ」
気持ち悪い。赤也を含めてそこに居たレギュラー全員が思った。ただでさえ年相応に見えなくてからかわれるのに、恥ずかしそうに赤面する真田の態度は最早笑って下さいと言っているような物なのだ。
部室に入ってきた時に赤也が感じていた雰囲気とは、幸村が苛々していて他のレギュラーが笑いを堪えていたのが原因らしい。赤也も見慣れない真田のあたふたした態度に音を立てて笑った。
すると、そこへ平部員が跡部の到着を報せた。柳に突かれた真田は、一度ゴホンと咳をしてから部室を出て行く。
「よォ、幸村。退院おめでとう」
「やぁ、跡部。見舞いにも来てくれたのに悪いね」
「気にするな。俺様の気持ちとして受け取りな」
「ふふっ、うん。ありがとう」
先に出て行った真田よりも、跡部は幸村に声を掛けた。彼らは意外と親交があるらしく跡部は菖蒲の花束を幸村に渡している。「菖蒲の花言葉は“良い便り”だね」「お前の退院は良い便りだろ?」「そうだね。…それは跡部にとっても?」「あーん?勿論だ。全国大会、楽しみにしてる」「ああ、俺もだよ。上で会えるのを楽しみにしている」
だんだん、沈んでいる真田が哀れに見えてきたレギュラーたち。幸村は頗るいい笑顔で跡部と話していて、あの人はやっぱり嫌な人だ、と赤也は胸中で冷や汗を流した。
漸く跡部は幸村との会話を終え、真田と向き合った。完全に拗ねている真田は顔を上げようとしない。跡部はふっと笑うと、真田の被っていた帽子のつばを掴み、曲がっていた角度を直してやった。そして、上目遣いで言う。
「拗ねんな。…弦一郎?」
「っ……跡部、」
「せっかく来たんだ、挨拶だけじゃつまらねぇ。切原!試合やるか?」
「え、いいんスか!やるッス!!」
あれ?一瞬包まれた雰囲気は“旦那のネクタイを直してやる妻。二人は新婚さん”みたいな甘いものだったのに、跡部の一言であっさり霧散した。それでも真田の機嫌は直ったらしく、いつものように大声で赤也に注意している。
「弦一郎…」
「完璧に跡部が主導権握ってるよね」
「哀れナリ」
「それも跡部くんは自覚ありですね」
「真田は尻に敷かれるタイプだったんだな」
「がんばれぃ、真田ー」
全員から同情されているとは露知らず、真田は笑顔を見せて跡部と話していた。満更でもなさそうに跡部も微笑んでいる。
「やっぱり、気持ち悪いね」
ただの悪口に聞こえるそれも、真田にとっては最上級の褒め言葉だった。
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5000打企画ということで貰ってきました!!
真田と赤也が可愛くて思わず口許が弛みました(*^^*)可愛い立海と素敵な跡部さまをありがとうございます。
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