もちゃ子さんから
去年の大晦日は仁王の家で年越しそばをご馳走になり、よく分からないお笑い番組を見ていたらいつの間にか零時を過ぎていて新年を迎えていた。
いつもなら就寝している時間に笑ってキスして「今年もよろしく」と口にするのはなんだかとても甘くて。
この年の初夢なんてちっとも覚えていない。
付き合いだして一年と半年。良くも悪くも関係を保って今に至る。
互いの微妙な地域の距離感が逆に良かったのかもしれない。
別に毎日会いたいだとか連絡とりたいなどと思った事もないし、たまに電話してたまに会ってたまにセックス出来ればそれで満足するのだから。
正しい恋人という在り方なのかはきっと互いに分かりはしないが、仲良くやっていけているのだから不正解でもないだろう。
「今年ももう終わりなんてな…長いようであっという間だったのう」
こたつに足を埋めながら視線はテレビへと向けられ、時折小さく笑い声を上げながらぽつりと呟く。
長い脚が邪魔で軽く蹴れば一瞬だけこちらを見やるも、直ぐに視線を元に戻して片足を絡めてくるのは嫌いじゃない。
「年寄りみてーな事言うんだな」
そんなしみじみと一年を振り返ったりする質でもないだろうという意味を含めての言葉にようやく視線をこちらに向け、口端を上げて笑う。
その笑みはとても大人っぽく、かつ甘みを含んでいて見るたびに胃の下辺りが締め付けられて痛むのだから困る。
だけどこの感覚は今では中毒となり、もっともっとと強請る様に痛みが増す。
「お前さんと居ると時間があっという間に過ぎる」
普段は言葉を濁すくせにこういう時だけストレートに言うのは卑怯だ。
ストーブを焚いているせいか空気は乾燥していて、喉の奥が酷く乾く。
「…そうかよ」
今度はこちらが相手を見る事が出来なくなってしまい、昨年もやっていたよく分からないお笑い番組に目を向ける。
内容なんて全く頭に入ってこないのにやたら真剣に見てしまうのはいろいろと隠したい気持ちがあるからだ。
「跡部も同じじゃろ?」
いつの間にか両脚を絡められて動けなくなっていたその脚を手の平で撫でられれば唇をやんわり噛んで眉を顰めるも、気持ちを誤魔化すのはもう難しくなっていた。
「お前のそういうとこ嫌いだ」
「俺はお前さんの素直じゃないとこ、好いとうよ」
しっかりと合わさる視線。耳が熱くなったのはきっと気のせいではないだろう。
テレビから流れる笑い声はもうBGMでしかなくて、言葉は耳に入ってこなかった。
ゆっくりとした動作で対面から隣へと移動して来たと思えば軽く頬にキスをされ、前髪が耳をかすめるのがこそばゆい。
「お前…自分の部屋だからってなぁ…」
「鍵かけちょるから安心しんしゃい」
またそうやって見透かす。頬から唇を動かして耳朶を甘噛みして輪郭を舌でなぞり、きつく抱き締めて少し苦しいくらい。
この零距離が愛しくて、また胃の下辺りがギュウギュウと痛む。
熱い息を吐き出して俯けば額にも口付けされて、顔を見る事すら今は出来ないでいた。
「跡部、好いとう」
そのまま下から唇を押し付けられ、頬を手で包まれれば自然と顔は上向きになり相手の温もりが直に伝わってくる。
角度を変えて深く口付けるのが気持ち良くて息をするのを忘れてしまいそうになるのはいつもの事。
上唇と下唇を舐める舌の感触に腰が震えて仰け反ればそれを煽る様に片手でそこを撫でる。
声が出そうなのを我慢しようと肩に爪を立ててしがみついていればテレビから大きな拍手と歓声が聞こえ、そちらに視線を向けた相手が間抜けな声を上げた。
「あ、」
「あ?」
その声に釣られてテレビを見やれば、手元のリモコンをいつの間にか押していたせいかチャンネルは変わり、アイドル達が年明けを祝ってマイク越しに高い声で騒いでいる。
「…年明けちまったじゃねーか」
別にカウントダウンをしたかったわけではないけれど少しだけ残念な気持ちになるのは何故だろうか。
「去年もこんな感じだったのう」
体勢を直して緑茶の入った湯呑みに口を付ければ口内の乾きも潤う。
それを飲み込んだ瞬間にまた頬を掴まれて唇を啄まれ、濡れた唇がいやに艶めいて見えた。
「今年初ちゅーじゃな」
「ば、っか…キモい事言うんじゃねーよ」
頬を抓ろうと手を伸ばせばそれを掴まれてそのまま強く抱きしめられた。
同じシャンプーを使っているはずなのにやたらフローラルな匂いが鼻を擽って胸が焼けそうになる。
「明けましておめでとさん…今年も、この先もずっとよろしくしてくんしゃい」
互いの額を合わせて見つめ合えば全身が幸福感で満たされるのだから、自分という人間はなかなか安上がりだ。
「当然、だろ?」
いつの間にか年は明けてキスして笑いあって。そのままこたつで寝て日の出を見逃して騒ぐ。
それがこれからも当たり前でありますように。
A HAPPY NEW YEAR!
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mocyaのもちゃ子さんからフリーだったので頂いてきました。
もちゃ子さんの小説は面白さが安定しているので大好きです!いつも楽しませてもらってます。
てか仁王も跡部さまも可愛いな〜、なごむ…。
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