麗さんから
関東圏でも梅雨入りして、ジメジメした天気が続いていたある日の晴れ間。久し振りに拝めた太陽を見上げ、跡部はグッと背伸びをする。こんな日にテニスが出来たらいいのに、生憎今日の部活は休み。監督である榊が出張で居なく、テニスコートの点検だとかで放課後の楽しみを潰された。
だが、この天気だ。このまま帰るのはもったいない。跡部が部活のメンバーを何処かへ誘おうと携帯を取り出した時、ナイスタイミングで着信が来た。表示された名前は『幸村精市』このタイミングの良さに鳥肌が立ったが、恋人からの電話に出ないわけにはいかない。
「どうした、幸村」
『やぁ、景華。下を見てご覧」
挨拶も早々に幸村が急かすので跡部が教室の窓から校庭を見下ろすと、校門に佇む一人の男。携帯を耳に当て跡部に手を降る男は間違いない、幸村だった。跡部が驚いて大きな瞳を見開く。
「…何で」
『部活、ないんでしょ?…我が最愛の女王様、今から俺とデートしませんか?』
何で部活がないことを知ってるんだ、とか疑問に思ったが今更この手のことで驚いている暇はない。丁度、何処かに寄りたいと思っていたし、跡部は珍しくその顔を綻ばせた。
「私を満足させてみろよ?」
『仰せのままに』
恭しく頭を垂れた幸村の姿に笑い、跡部は荷物を手に取ると、幸村の元へ嬉しそうに走った。
* * * * *
思わず、跡部は幸村をじーっと見つめた。
「景華?どうした」
「…制服姿、あまり見ないから」
「ああ、そうだね。じゃあ今日は制服デートだ」
二人がよく会うのはやはり部活の後で、ジャージ姿や休日の私服なら見慣れているのだが、制服のままで揃って歩くのは初めて。ストライプのネクタイやシワ一つないワイシャツが幸村によく似合っている。跡部も白いシャツと赤いネクタイが色彩的に合っていて、短いスカートから伸びる足は綺麗だ。
「よく似合ってるよ、景華」
「ふん、お前もな」
素っ気ない態度でも照れているのはお見通しだ。若干、そっぽを向いた顔が赤くなっていて幸村は苦笑した。己の彼女は本当に可愛らしい。
「あ、クレープだって。食べる?」
「…チョコじゃなきゃ嫌だ」
「分かってるよ。ちょっと待ってて」
ポツリと呟かれたかわいい我が侭に頷いて、跡部を一人ベンチに残したまま幸村はクレープを買いに行ってしまった。途端に暇になって、手持ち無沙汰な跡部は幸村の後ろ姿を見つめる。
男にしては華奢な身体つきだが、やはり跡部よりは逞しくて存在感がある背中。今日はワイシャツなのでその身体つきがよく分かった。何だが新鮮な感じに跡部は小さく笑う。
「あー、氷帝の生徒さん?」
「金持ちの私立校じゃん!…てか、めちゃくちゃ可愛くね!?」
「…何だ貴様ら」
幸せに浸っていた時間を訳のわからないジャラジャラしたアクセサリーを付けた馬鹿そうな男たちに邪魔されて、跡部の瞳が怒気を孕む。なんせ目立つ容姿、学校の名だ、ナンパなんて慣れているが多少は身構える。跡部の様子を悟ったのか、二人の男はゲラゲラと笑った。
「強気な子だなぁ。俺の好み!」
「なぁなぁ、俺らと遊ばね?」
「っ、離せ!」
気持ち悪い顔を近づけて来て腕を掴まれた跡部は、嫌悪から鳥肌を立たせ離れようと試みるが、いかせん男女の力の差は大きくて。引っ張られ抱き締められそうになった時、「ぎゃっ」と男たちの情けない悲鳴が響いた。思わず瞑った目を開けると、頗るいい笑顔を見せる幸村がニコニコとした様子で立っていた。男たちの頭にはクレープの残骸。
「誰の女に手を出してるの?……目障りだ。早く俺たちの視界から失せろ」
「っは、はい!すいませんでした!!」
クレープの他に幸村は二人の腕も取っていたらしくて、折れそうになる痛みに慄いた二人は脱兎の如く逃げ出した。笑顔の幸村は不気味で怖かったが、少し震えている跡部には心配そうに眉を下げた。
「景華、大丈夫だった?」
「…ん。助かった」
「ごめんね。久し振りのデートだったから油断した」
「いや、気にするな。私は大丈夫だから」
「…強がり」
幸村は微笑すると跡部の手を握って頭を撫でた。優しい温もりと手の感触に跡部の顔がホッと安堵する。彼女がいくら気が強くても女は女だ。何度ナンパされようがあの恐怖には慣れない。
「ほら、クレープ」
「幸村のは、…あ」
「馬鹿な奴等の頭の上。俺はいいから景華は食べなよ」
手渡されたチョコバナナのクレープ。跡部がよく食べる種類で、不安気に見上げる跡部の頭を幸村はもう一度撫でた。
「…ん」
「え、…半分こ?」
「ひ、一人じゃこんなに食べれないし、…今日は特別だ」
素直に“さっき助けてくれた礼だ”って言えばいいのに、全くこの子は。
緩む頬を自重出来なくて、跡部の素直じゃない可愛さに幸村は破顔した。
「ありがとう。でも、これで十分だよ」
そう言って幸村は跡部の唇にキスをした。触れるだけのそれでも、口の中にじわりとチョコの甘さが広がる。顔を真っ赤にして固まる跡部に、また幸村は顔を綻ばせるのだった。
※※※※※
二万打企画ということでにょた跡部さまをリクエストしてみました。
私も緩む頬が自重できません、どうしよう(・∀・)跡部さまの可愛さは罪の域だね!!ひゃっほい!
文面から分かる通り、テンション上がってます。
麗さんのにょた跡部さま大好きです。特に名前!なるほどなぁって思いました。
素敵な幸跡ありがとうございます!
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