澄んだ声に、(恋をした)
監督は基本的に部活に来ることが少ない。音楽教師である方を優先し、氷帝には勉強熱心な生徒が多いのでその指導で忙しい。
ただ、それを悪いと思ったことはなかった。時々様子は見に来るしその時のアドバイスは的確だ。試合にもちゃんと顧問として参加し、指示をおくる。悪いと思う所か尊敬に値する人物であると考えて良い程だ。
そんな監督に、一応信頼はされているのだろう。仕事を任されることがよくあった。
仕事と言っても誰にでも出来るような簡単な仕事だが、ただ量が多くて部活に出れず、ずっと机に着いていた時は流石にうんざりした。そしてその後にはこの量を今までこなしてきた監督に尊敬の念が残った。
そんな大量の仕事の中に、青学への届け物があった。
今日中に届けてほしいということで、部活のスケジュールを忍足に渡し、青学に向かう。
++++++++++
許可を貰い、職員室まで行ったが既にテニス部の方に向かったと言われ思わずため息を吐いた。
気遣ってか、他の教員の方に机の上に置いておこうかと言われたが、自分の手で渡さないとちゃんと手元に渡ったか不安なので断っておいた。
そしてしょうがなく、何度か練習試合で来たことのあるテニスコートへと向かう。
まぁそこまで広い(…と言うか正直に言えば狭い)わけでもないので簡単についた。今気付いたが、他の学校の生徒も偵察なのかちらほら目に入る。氷帝はセキュリティが厳しいので偵察に来られることが無いので少し新鮮に思いながらも、そいつらと同じようにコートの中に目を向けた。
コートには青学のレギュラー達が打ち合いをしており、1年は球拾い、2年はサーブの練習をしていた。
「荒井、もう少しラケットの面の中心にボールを当てるよう心掛けろ。振るのが早い、ボールを良く見ろ!」
無意識にレギュラー達の試合を見ていた俺の耳に入ったのは、誰よりも俺と対等に試合が出来、そしてその試合で左肩を壊して今はリハビリで、青学にはいないと思っていたーーーーーーーー
「手塚………!」
小さく呟いた俺の声は誰に届くことなく消えていった。
何故か……、表情はいつもと同じで仏頂面なのに、今日は俺が見てきた宿敵ーーライバルーーである手塚とは違う人物に見える。
仲間の試合で黙って見守っている手塚とも、試合では落ち着いた状態で相手を容赦なく叩き潰す手塚とも、またその逆で切羽詰まったような試合を繰り広げた…そんな手塚とも違う。
決して張り上げているわけではない。しかし、凛として透き通った声が俺を射貫くかのように俺の耳へと入っていった。
ーーーーーーよく、手塚のことが好きだろうと聞かれたことがあった。それは正直心外で、俺は手塚をライバルだと思ってはいるがそれ以上も、それ以下の感情も持ち合わせてはいなかった。
だから、
好きになったのはこの瞬間だ。
言っておくが、俺は手塚を好きで好きになったのではない。
周りからしつこく言われたら嫌でも気にするし、それに…
澄んだ声に、
(恋をせざる得なかったんだ)
※※※※※
前半、監督を何故か褒めまくってしまいました。多分私の太郎好きが出てしまった結果です。
手塚と跡部の試合には『切羽詰まった』という表現は何となく違う気がしてなりませんが、語彙力の無さを恨むしかありません。
配布元:
確かに恋だった
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