み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [6/10]

 しばらくしてから恐る恐る視線を上げると、彼は力なく肩を落とし、寂しげな瞳で何も答えない私を見つめていた。
「大嫌い」と直接的に拒否されたショックは私が思っているよりも大きかったようだ。
さっきまでの無邪気な笑顔はもう消えてしまっている。

「……お湯、ありがとね。そろそろ帰るわ。邪魔してごめんね」

 テレビの音声だけが流れたしばしの沈黙の後、彼はすまなそうにそう言いながら立ち上がろうとした。
私ははっとして、思わずそのジャージの裾をつかんでしまった。
彼はそんな私を驚きながら見下ろし、困ったように笑う。

 何故だか私はその時、彼にそんな顔は似合わないと、素直にそう思ったのだ。
私は彼を見上げたまま眉を寄せ、ぽつりぽつりと呟いた。

「違うの。あの、びっくりして。……ごめん」

 しどろもどろにそう言う私を見て、彼はまたすとんと腰を落とした。
彼は相変わらず困ったように笑ってはいたけれど、その瞳はどこか穏やかさを映しているようにも見えた。

 さっきよりも距離のない二人の間に、重苦しいような、それでいてくすぐったいような、夏の透き通った空気が流れる。
扇風機の機械的な音とその風だけがその空気の中をよぎった。

 お互いに視線を逸らせないままでいると、彼が後頭部を掻きながらぽつりと言った。

「……いや、俺もちょっと強引だったかな」

 その顔には少しだけ、さっきまでの笑顔が戻っていた。

 私は彼のその様子を見て、思わず息をついて顔を緩ませた。
それから照れ隠しに髪を撫で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ごめん、大嫌いなんて言って。ちょっと悔しかったからさ」
「悔しかった?」

 彼は少し首を傾けながら、どこか嬉しそうに私を見つめる。
小さい子が母親を見るようなそのキラキラした瞳に、私はくすりと笑いをこぼした。
彼に対する憤りは面白いくらいに治まっている。
不思議な人だな、とぼんやり思った。

「うん。手のこともそうだけど、私のこと覚えてなかったでしょ?こっちは……勝手にだけど、ライバル視してたからさぁ」

 私がそう言うと、彼は何故かぎくりとした様子で視線を泳がせた。
その様子があまりにも不自然だったので、私はその答えを促すように前のめりになって彼を見つめた。

「あー、それは、えっと」
「何?」

 問い詰めるようにそう強い口調で言うと、彼は更に視線を泳がせる。
「あ、えー……まさか、サヤカちゃんも伊織が好きなの?」
「イオリ?誰それ?」

 疑問符を頭に乗せた私が眉を寄せると、彼は明らかに「しまった」という表情を見せて固まった。
わずかに心の隅に残っていた彼への憤りが、再びちりちりと音を立てて火を灯す。

「……詳しく聞かせてもらおうじゃないの」

 形勢逆転、といった様子でニヤリと笑いながら私が腕を組むと、彼は表情を硬直させたままくるりと私に背を向けてカップ麺をつかんだ。

「あ、そろそろ三分だよねー……」

 その蓋を開けながら零した彼の乾いた笑いが、テレビの向こうのすすり泣きと不協和音を奏でる。

「そんなんでごまかせると思ってんの?」
「……思わない」

 ぽつりとそう呟いた彼の背中は、今までよりも少し小さいような気がした。

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