み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [5/10]

「でも隣に同じ学校のヤツがいるなんてびっくりだわ。しかも同じ学年とはねー、全然気付かなかった」

 当たり前だ、と言いたい気持ちを抑え、「してやったり」と微笑む私。
それを知っていたから遭遇しないようにしていたのだから。

 でも何も知らない彼は、そう言ってから勢いよく体を起こし、また無邪気な瞳を私に向ける。
私はその笑顔に少し身を引いたが、ニカッと歯を見せる彼につられて笑顔を返した。

「これからよろしくね」

 彼はそう言いながらすっと私に左手を差し出した。
屈託のない笑顔は変わらないので、何かを目論んでいるとかいうわけではなく、純粋に握手しようと思っただけなのだろう。

「……はぁ、えっと」

 けれど、私はそうすることをためらった。
焦りながらも顔が熱くなっていくのを感じ、膝を抱える腕をぎゅっと強める。
そんな私の様子を彼は不思議そうに見つめ、それからそれがさも当たり前のように差し出した左手で私の右手を優しく取った。

「ちょっ……」

 みるみるうちに体中が熱を帯びていく。
特にその繋がれた手があまりにも熱くなり、そこから目が離せない。
呆気にとられた私は、彼のその手に抗うこともできなかった。

「こうすんだよ。よ・ろ・し・く・ね!」

 骨ばっていて固くて、けれど温かい手だった。
彼はカップ麺を受け取ったときと同じ無邪気な笑顔で、その言葉と合わせるように繋がれた手を大きく振った。

「お隣のよしみで仲良くしてね。もうすぐ学校始まるし」

 それだけ言うと、彼は静かにその手を離した。
解放された私の手が、ぱたりと力なく畳の上に落ちる。

「……信じらんない」
「え?」

 俯きながら、私は自分の口が動くがままに呟いた。
彼がそんな私の顔を覗き込もうと顔を寄せる。
その瞬間、私は火照った顔を勢いよく上げ、彼に向かって勢いよく叫んだ。

「大ッ嫌い!お前となんか一生よろしくしてやるもんか!」

 笑顔はもうどこにもなかった。
わなわなと顔の筋肉を震わせて怒りを露にする私に、彼は驚きを隠せない様子で口をぽかんと開けたまま身を引いた。

「え……ちょっと待って、俺なんかした?」
「したから言ってんでしょ!お前なんかやっぱり大嫌いだ!」
「ねぇ、落ち着こうよ!ねぇ……わっ!」

 彼の言葉は私の投げた座布団に遮られた。
私は相変わらずの顔の火照りを感じながら、呆然とする彼から逃げるように少し距離をとり、睨みつけて下唇を噛んだ。

 初めて手を繋いだ男子がこいつなんて、絶対に認めない。

 まだ彼の体温が残るその手を、もう片方の手で覆うようにぐっと握り締め、私は全ての元凶であるカップ麺へと視線を逸らした。
扇風機の風に乗って流れてくるその懐かしいようなしょっぱいような匂いが鼻につき、瞼が熱くなる。

「何怒ってんだよぉ」

 困ったような彼の声にも、私はカップ麺を睨みつけたまま何も答えなかった。

「そっか、俺のこと……嫌い、なんだっけね」

 消えるようなその低い声に、私はぐっと肩を強張らせた。
自分で放った言葉とはいえ、その重みを知っている私はまた良心の痛む音を聞いた。
苛々が次第に熱を冷ましていく。
申し訳のない気持ちが溢れそうになった私は、足を崩して静かに正座し直し、黙ったまま俯いた。

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