み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [4/10]

「どうした、サヤカちゃん」

 不意に名前を呼ばれ、私ははっとして彼と視線を合わせた。
彼はいつの間にかカップ麺をテーブルの上に置いており、立ちすくむ私を不思議そうに見上げていた。
彼のウェーブのかかった髪が、部屋の隅に置かれた扇風機からの風で規則正しく揺れる。

「あ、別に何でもないけど」

 私は慌てて首を振った。
それでも彼はじっと私を見つめている。
私はその無邪気な視線に居たたまれない気分になり、逃げるようにふっと視線を逸らした。

「もしかして、これ欲しいの?」

 ふっと視線を戻すと、大事そうに両手でカップ麺を抱える彼の姿があった。
見た目はいかにもちゃらちゃらした高校生なのに、その姿は差し詰め大好きなおやつを守る子供のようで、あまりにも幼く見えた。
思わず笑ってしまい、私はそのままその場に座り込んだ。
そんな私の様子を、彼は不可思議なものを見るような目つきでじろじろと見つめている。

「……いらないよ」

 私は膝を抱えながらそう呟いた。

「ホントに?まぁ、頼まれたってあげないけどね」

 彼はあっけらかんとした口調でそう答え、静かにカップ麺を置いた。
それからその目にかかった前髪を無造作に掻き上げる。
ふわり、と甘い匂いが私の鼻をくすぐった。
シャンプーの香りだろうか。

「いらないって。そこまで飢えてないし、自分でご飯くらい作れるから」
「マジで?すげーなぁ、俺は全ッ然ダメ。自分のメシ食うくらいなら、一生インスタントの方がよっぽど天国ですよ」

 大真面目な顔をしてそう言い切った彼を見て、私は込み上げてくる笑いを抑えることができなかった。
そうして声をあげて笑う私を、彼は呆気に取られた様子で見つめる。

「えぇ?何か変なこと言った?」
「ち、違うの。ごめん、あんまりにも、おかしくって」

 乱れた息を整えながら、私は彼を見つめ直した。
なんてことはない、こんな無邪気にカップ麺を崇める人間を目の敵にしていた自分に笑ってしまったのだ。

 彼はそんな私を不思議そうに見つめていたが、話の流れを変えようとしたのか、ゴホンと大きく咳払いをしてから「それよりさ」と話し出した。

「覚えてなくてごめんな。俺、人の名前とか顔とか覚えるの苦手なんだ」

 いきなり素直に謝られてしまい、真顔に戻る私。
そこで「いいよ」とか「気にしないで」と言えれば可愛らしいのだが、そう上手くもいかない。
あの初対面の挨拶を思い出した私は、まだどこかでくすぶっている対抗心を感じながら俯いた。

「……別に。話したこともなかったんだから、それが当然でしょ」
「じゃあさ、何でサヤカちゃんは俺のこと覚えてたの」

 どくん、と心臓が大きく鼓動を打つ。
不意を突かれた私は、「それはね」と言ってからどもり、膝を抱える腕を強めた。
表情を変えない彼の顔からは、全てに気付いているのか、それとも私に興味がないのか、どちらの様子も読み取れない。

 どうしたものかと焦っていると、彼はあぐらを掻いたまま後ろに手をつき、大きく仰け反った。
どうやら私の慌て具合にはあまり興味がないようだ。
その様子に内心ほっとしていると、彼はそのままの体勢で口を開いた。

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