庭には夢が埋まってる 花びら一枚分の恋 [3/9]二人で顔を見合わせてそんなことをしていると、思い出したように絢が口を開いた。 「人気があるといえばさ、隣のクラスの矢部くん、彼女できたらしいよ」 その言葉を聞いたとき、一瞬ぐらりと目の前が揺れた。 口元は笑っていたけれど、なぜか頭が追いつかない。 心も追いつかない。 「夏休み中に付き合い始めたんだって。いいなぁ、私も彼氏欲しくなってきたかも」 まるで恋をしているような瞳で微笑む絢。 痛いくらいに鳴り続ける心臓の音。 頭の中が真っ白になって、応える言葉が出てこなくなった。 その気持ちを恋と呼ぶには、あまりにも小さすぎるような気がしていた。 それでも私は恋をしていたのだろうか。 テスト結果を見たときよりも苦しい気持ちになったのは、これが二度目のことだった。 「ん、どうしたの?」 覗きこむ絢の顔にはっとして息を吸う。 呼吸するのも忘れていた。 「ううん。ごめん、ちょっとぼーっとしちゃって」 少し視線を落とし、なんとか笑顔を作ろうとしてみる。 でもできない、顔が動かない。 「変なの。どうしたの急に」 絢に全て話してみようか。 よくわからないこのモヤモヤした気分と、今まで秘密にしてきた小さな憧れ。 「絢、今日学校終わったらどっかで遊んで行かない?」 「何、どうしたの。清花からそんなこと言うなんて珍しいじゃん」 「なんとなく」 「そっか。うーん、でも駄目だ。今日バイトあるからすぐ帰んなきゃ。ごめん、明日でもいい?」 残念そうな表情の絢に、ついいつもの癖で「いいよ」と返してしまう。 じゃあ今ここで話してしまおう。 でも、今その話をしたら泣いてしまうような気もする。 そんなことで迷っていたら、運悪く次の授業の先生が時間より早く教室に入ってきた。 「やっば。じゃあまた後でね」 急ぎ足の絢と同じように、騒がしくしていた他のクラスメイトもそそくさと自分の席に戻っていく。 すっかり話すタイミングをなくしてしまった私は、無意識のうちに机の中から生物の教科書を取り出していた。 [*prev] | [next#] [bookmark] BACK |