庭には夢が埋まってる 神様のパズル [7/7]彼がいつものように穏やかに笑うと、今まで彼に対してしてきたことが全部許されたような気がした。 ほっとした私は彼の言葉の真意を尋ねるのも忘れ、ぼうっとしたまま彼の笑顔を見上げていた。 そんなときだった。 「英知、授業遅れる」 そうして彼の後ろからぬっと顔を出したのは、忘れもしないカラオケ店で会った男の人だった。 切れ長の瞳はこの間よりも和らいではいるが、それでもどこか険しい雰囲気があるように感じる。 須藤英知よりも高い位置にあるその視線が向けられたとき、口を開けたままの私は瞬間的に正面の穏やかな瞳に助けを求めた。 「あぁ、こいつが前に話した伊織だよ。覚えてる?」 「覚えてる……っていうか」 「この前、カラオケで会ったんだよね。ねぇ、清花?」 いつの間にか隣に来ていた絢がにっこりと微笑んで私の腕に絡みつく。 須藤英知は驚いた表情で「そうなんだ!」と切れ長の瞳に笑顔を向けた。 「私は片桐絢。こっちは遠野清花ね。よろしく!」 満面の笑みで自己紹介する絢の傍らで、居辛い私は肩をすぼめた。 ちらっと様子を伺って見た伊織くんは、絢と須藤英知のやり取りを黙って眺めている。 「あ、どうもこちらこそ。須藤英知です。あと、諏訪原伊織」 「うん、伊織くんもよろしくね」 話を振られた伊織くんは軽く会釈して、小さな声で「どーも」と答えた。 絢はそれでも満足そうで、いつも通りなんだかんだと話を振っている。 凄く嫌な予感がする。 「どうした、サヤカちゃん」 その声に振り返ると、相変わらず笑顔の須藤英知がいた。 少し前までは顔を見るのも嫌で、仲良くなることなんて想像もつかなかったのに。 どうしてこんなことになっているのだろう。 「ねぇ、その『サヤカちゃん』っていうのやめてくれる?初対面からそうだったけどさ、馴れ馴れしくない?」 「だって、サヤカちゃんが先に俺のこと名前で呼んだんじゃん。だから俺もそうしたんだけど」 「じゃあこれからやめて」 「もう無理だな、慣れちゃったから」 彼はそうしていつもとは違う、余裕そうな笑みを浮かべた。 もし彼の言った通り、私の暴言の半分が真実なら、彼はそんなにいい人でもないのかもしれない。 そんなことが少し伺えるような笑い方に、私の枯れかけていた闘争心がふと目を覚ます。 「楽しみにしてなさいよ、昨日のテストの結果は私の圧勝だから」<br />「別にいいよ。俺、結果はどうでもいいんだ」 爆発しかけた私を諌めるように、タイミングよく授業開始のチャイムが鳴り響いた。 [*prev] | [next#] [bookmark] BACK |