庭には夢が埋まってる 神様のパズル [6/7]「どうしたの、廊下の真ん中で止まったら邪魔でしょ」 「だって、ほら、あっちのトイレの方が近かったじゃん」 教室の方へ引き戻すように腕を引っ張ってみるが、彼女は全く動じない。 「やだ。あそこ混むんだもん」 「でもいつもは行くじゃん。なんで今日に限って」 そこまで私が言ったところで絢は視線をふっと進行方向に逸らし、ぱぁっと顔を明るくした。 嫌な予感がしたけれど、私も恐る恐るそちらへ目を遣ってみる。 人波の少なくなったそこにいたのは、予想通り教室移動中の須藤英知だった。 彼もまたうつむき加減で、一人のろのろと歩いている。 昨日はワイシャツ一枚だった彼も、さすがに寒かったのか、今日はその上にグレーのカーディガンを羽織っていた。 「ほら、仲直りしてスッキリしてきなよ」 絢がこっそり耳打ちして、私の背中を急かすようにはたいた。 彼はまだこちらには気付いていない。 逃げるなら今だぞ、と脳裏で誰かの声がする。 でもここでまた逃げたら、後悔するのは目に見えている。 小さく深呼吸して、私は早足で彼に近付いた。 「あの、」 私の声にふっと顔を上げた彼は「わっ」と小さく声をあげ、それから気まずそうに目を泳がせた。 私も一瞬ひるんだけれど、思い切って大きく頭を下げた。 「昨日はひどいこと言ってごめんなさい」 「……気にしてないよ。俺の方こそごめん」 どことなく彼の声がかすれているような気もする。 昨日あんなに薄着でいたから風邪でもひいたのだろうか。 それとも傷ついて眠れなかったのだろうか。 どうしたらいいかもうわからなくて、胸の音はどんどん高まっていった。 「頭、あげてよ」 ゆっくりと視線を上げると、彼は少し困ったような笑顔を見せた。 私もつられて笑顔を作ったけれど、うまくできていないのはわかっている。 「なんでサヤカちゃんにはわかったんだろうなぁ」 思わぬ言葉に首を傾げると、彼も私の真似をして眉を寄せた。 「馬鹿になんてしてないよ。でも、サヤカちゃんの言ったこと、半分くらいはホントかも」 「どういうこと?」 「サヤカちゃんには嘘つけそうにないなってこと」 [*prev] | [next#] [bookmark] BACK |