庭には夢が埋まってる 神様のパズル [2/7]その書店に訪れたのは夏休みの少し前、読書感想文のための本を見繕いに来たとき以来だった。 そのときと比べると少し内装が変わっているような気もする。 高校から一番近くて規模も大きいため、学校の試験時期や季節に応じてちょくちょく店の雰囲気が変わるのだ。 入店してすぐ目の前にある大きな台の上には、「読書の秋到来!」と書かれたポップと一緒に大量の文庫本が平積みになっていた。 出入り口にあった傘立てへと綺麗に畳んだ傘を置き、ずれた眼鏡を直してぐるりと店内を見渡してみた。 けれど須藤英知らしき人の姿は見当たらない。 そのままきょろきょろと周りを探しながら、とりあえず少年漫画のブースの方へと向かってみることにした。 同じ学校の制服がちらほら見受けられる中、須藤英知の姿は少年漫画のところにも、参考書のところにも、文庫のところにもなかった。 今更ながら私は「そこまでして会ってどうするつもりだ」と自分の行動に疑問を抱き始め、急に馬鹿馬鹿しくなって帰ることにした。 さっきまで高揚していた気分も冷静に戻ってしまい、ただの無駄足で終わった自分の行動に呆れて溜め息が出た。 これ以上無駄な時間を過ごしても仕方がないと、早足で出入り口へ向かった。 傘を手にとって見上げた自動ドア越しの空は、さっきより薄暗く感じる。 須藤英知に関わると、ろくなことにならない。 毎回ペースを乱される、自分の嫌なところが浮き彫りになる。 たぶん、いや絶対、彼とは交わらない線の上を私は歩いているのだと思う。 彼と関わるということは、その線から外れることになる。 だからもう彼のことは気にしない。 元々別次元の人だったのだ。 そう自己完結して自動ドアの前に立とうとした瞬間、後ろから聞き覚えのある声がした。 踏み出そうとした足は出なかったのに、なぜかドアは低い機械音を立てながら開いた。 「サヤカちゃん」 彼はそうして、何のためらいもなく私の隣に立った。 やっと見つかった須藤英知にふと顔を向けたが、少し前までの軽快な気分が戻ってくることはなかった。 「久しぶり」 相変わらずの笑顔を私に向けた後、彼は傘立てに手を伸ばし、透明のビニール傘を取り出した。 腕まくりされた白いワイシャツは、裾が少しだけウエスト部分からはみ出している。 寒そう、と単純に思った。 [*prev] | [next#] [bookmark] BACK |