み ず か
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庭には夢が埋まってる
神様のパズル  [1/7]

  始業式の日は雨だった。
最近は残暑の影もめっきり薄くなって過ごしやすい陽気が続いていたけれど、その日は天候のせいもあっていつも以上に肌寒かった。
でも、そんな気候が暑がりの私にはちょうどいい。
長袖のワイシャツの上に薄手のカーディガンを着込み、自転車には乗らずに徒歩で学校へと向かった。

  私の通う高校では、始業式当日に休み明けの実力テストがある。
もちろん五教科、成績の順位も定期試験と同様に貼り出される。
休み明けといっても、夏休み中の課題から出題される訳ではないため、各自できちんと勉強しておかないと点数は取れない。

  実を言うと、私はこのテストに賭けていた。
夏休みはきっと遊び呆けていただろう須藤英知から首位を奪う絶好の機会だと考えたからだ。

  今度こそ抜いてやる。
そう深く誓って臨んだテストは改心の出来だった。
「よく頑張った」と心の中で自画自賛し、放課後の絢の誘いを断って真っ直ぐ帰宅することにした。
テストのことで頭がいっぱいだった数日前までと違い、今なら気持ちよく眠れそうな気がしたからだ。

  お気に入りのドット柄の傘を軽やかに回しながら、身も心もスッキリして鼻歌まじりに歩みを進める。
灰色の空と道路の狭間で、薄緑色の傘だけが浮き上がっている気がした。
朝からしとしと降り続く雨もこうなると、頑張ったご褒美に全てを洗い流してくれる神様のシャワーのように思える。

  二車線道路の脇の歩道を進んでいると、ちょうど目の前の信号が赤になった。
足を止めたついでにふと周りを見回してみる。

「……あれ?」

  広い道路の対岸に見つけたのは、あの須藤英知の姿だった。
彼はそのまま信号のない道を進んでいくと、すぐ側の大きな書店へと入っていった。

  いつもだったら、絶対に追いかけたりはしなかった。
でもその日の私はすごく気分が良く、彼に対する優越感に浸っていた。

  だからきっと今なら彼に謝れる、寛容に対応できるはず。

  そう考えた私は、目の前の信号が変わるのも待たず、道路の向こう側に渡る横断歩道へと足を向けた。
青信号が途中で点滅を始めても、まだ履き慣れていない新しいローファーで走った。
そして面白いくらい軽い足取りのまま、駐車場を通り抜けて書店の自動ドアをくぐっていった。

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