み ず か
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庭には夢が埋まってる
パフェもピンクも選べない  [8/9]


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 玄関を開けると、居間から唯花が「おかえりー」と顔を出した。
右耳の少し上の辺りでまとめられた長い髪が、その名の通り、馬の尻尾のように心許なく揺れる。

「お姉ちゃん、早かったね、今日はご飯いらないかと思ってたのに」
「絢に急用が出来ちゃってねー。うまく言って帰ってきた」

 スニーカーを脱いで家に上がり、すぐ側の壁時計を見る。
六時半を少し回ったところだった。

「さっき電話あってね、お兄ちゃんはご飯いらないって」
「また飲み会?」

 少し汗ばんだ靴下を脱ぎながら尋ねると、唯花は「ううん」と首を振って側に寄ってきた。
私より四つも年下なのに、背丈はほとんどかわらない。
でも体重は三分の二くらいしかないのだ。
血を分けた姉妹なのに、この差は一体何なのだろう。

「急にバイト代わってくれって頼まれたんだって。今日は一緒に餃子作る約束してたのにさ」
「バイトねぇ。そんなこと言ってまた彼女とデートでもしてんじゃない?」

 熱を持った素足が床に触れる度、ひやり、ひやりと、足の裏の体温を取り除いてくれる。
私はその感覚を楽しみながら、そのまま靴下を持って洗面所に向かった。

「ちょっと待ってよ、彼女いるなんて聞いたことないけど」
「私だって知らないけど。いるんじゃないの?」

 焦りを交えて抗議する唯花をすぐ後ろに従えて、洗面所に着いた私は靴下を洗濯機に放り込んだ。
本当は着ているTシャツもその場で脱いで放り込みたい気分だったけれど、小うるさい人が側にいるのでそうもできない。
以前それを実行して、「信じられない、女じゃない」と三十分ほど説教されたのはまだ記憶に新しい。

「いないよ。だってバイトとか飲み会ないときは、ちゃんとうちに帰ってくるじゃん」

 蛇口をひねって軽く手を洗い、ハンドソープのポンプを押す。
ブシュッ、と空気の抜ける間抜けな音がして、少量のそれが飛び散った。

「そんなのわかんないでしょ。飲み会です、とか言って、実は彼女の家で遊んでるかもしれないし」

 続けて何度か押し、やっと適量になったので丁寧に手を洗った。
何故か黙ったままの唯花の代わりに水の音が沈黙を埋める。
泡を流し終えて振り返ると、唯花が神妙な面持ちでこちらを見つめていた。

「お姉ちゃん、なんでそんな意地悪ばっか言うの?」

 私はタオルで手を拭きながら、「ブラコンも大概にしろってこと」と答えた。
それからムスッとした唯花の背中を押しつつ、キッチンへ移動する。
キッチンには餃子の材料がもう皮に包むだけの状態になっていて、彼女がお兄ちゃんの帰りを心待ちにしていたことは明らかだった。
むくれたまま黙っている彼女が少し不憫で、でも可愛らしく思える。

「ほら、餃子作るんでしょ!」

 唯花の憎らしいほど細い肩を叩いて、私は餃子の具を包み始めた。

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