庭には夢が埋まってる パフェもピンクも選べない [6/9]「もらえないって」 もう一度そう言って絢の肩に触れると、彼女はその丸い瞳でじっと私を見つめた。 思わずその瞳に吸い込まれそうになり、息が詰まる。 「あのね、綺麗なものとか可愛いもの見てると、視点も綺麗になるんだよ」 キラキラした鏡のような瞳に、歪んで陰った私が映りこんでいる。 「視点が綺麗になると、ちょっとずつポジティブになるの。そうすると気分も明るくなって、心も綺麗になる。いい匂いもそう。だから身の周りからそういうのでいっぱいにしとくの。そうすると自然とね、汚い言葉もひどいことも言わなくなるの」 真っ直ぐな彼女の瞳を見つめていると、鼻の奥がツンとして痛くなった。 涙腺が緩んでいるのはさっきの人のせいだ、と勝手な言い訳を自分に言い聞かせながら歯を食いしばる。 「清花はさ、いつも言ってるけど、ネガティブすぎる。暗い考えとか反省とかはするのに、前向きになれるのって勉強だけじゃん。反省したら、もうこれから気をつければそれでいいの。アヤも人のこと言えないけど、少しは清花も自分のこと好きになりなよ」 絢はそう言い切ると笑って、 「さ、どれにする?アヤのオススメはこれ」 とさっきから薦め続ける青いワンピースをもう一度私にあてがった。 そして私がまだ少し迷っているのを察したのか、 「ちょっと早い誕生日プレゼントってことならどう?」 と柔らかく微笑んで首を傾げた。 子猫のような瞳は相変わらず黒くて丸くて、キラキラと光を反射する。 こんな私のことも、少しは照らしてくれるのだろうか。 「いい、やめとく。楽しみは誕生日まで取っておきたいし」 でもさぁ、と言いかけた彼女を制するように、携帯の着信音が鳴った。 オルゴールではないから絢の携帯だ。 彼女はバッグからそれを取り出して開くと、「ごめん、お母さんだ」と眉間にしわを寄せた。 私は何度か頷きながらワンピースを受け取って、外を指差して足早に移動する彼女を見送った。 「行っちゃったね」 置いてきぼりにされたワンピースを持ち上げて、そう声を掛けてみた。 当たり前に返事はない。 ココア色のリボンが振り子のようにゆらめくだけだ。 嫌いなわけではなく、綺麗なものも可愛いものも、むしろ大好きだ。 レースやフリル、コサージュにアクセサリー。 それらがこの店には溢れている。 けれど手を伸ばすには勇気が足りない。 堕ちるのはあんなに簡単だったのに。 [*prev] | [next#] [bookmark] BACK |