み ず か
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庭には夢が埋まってる
パフェもピンクも選べない  [2/9]

「清花はどうする?」
「いつもと一緒」
「好きだねぇ。たまには違うの頼めばいいのに」
「いいの、しょっぱいのが好きなの」

 絢は「はいはい」とギブアップしたみたいに両手を小さく挙げた。
そしてふわふわしたワンピースを揺らしながら立ち上がり、部屋に備え付けられている電話を手に取る。

「あ、もしもし」

 襟足のすっきり見えるショートヘアーは、絢の整った顔にぴったりと寄り添って、かえってその美しさを際立たせている。
筋の通った形のいい鼻と、ゼリーみたいに揺れそうなみずみずしい唇をうらやましく思いながら、私はその彫刻のような横顔を見つめた。

「すいません、苺クリームパフェとフライドポテトお願いします」

 たぶんそれらを運んできた店員は、迷わずパフェを絢の前に置くだろう。
要は見た目の問題だ。
私にパフェは似合わない。

 それからしばらくして、私が熱唱しているところに若い男性の店員が入ってきた。
思わず私は声を止めたが、店員はそんなことなど気にも留めていない様子だった。
そして慣れた動作で予想通り、ポテトが乱雑に積まれた皿を私の、パフェを絢の目の前に置いた。
何やら品物の説明をしていたようだったけれど、その声は部屋中に響く演奏の音で掻き消され、聞こえなかった。



 二時間はあっという間に過ぎてしまった。
絢が時々、猫が媚びるときみたいな声で「こないだねぇ」と予想通り自分の話や身の周りのうわさなんかを話し始めたけれど、それ以外の時間はほとんど二人でマイクを握り締めて、山の向こうへ叫ぶみたいに歌っていた。

 私と絢は外見も性格も似ていないけれど、それぞれ悩みや嫌なことがそれなりにあるのは同じだった。
尽きない悩みは私たちの距離を縮め、お互いに対する安心感を生んだ。
それに、日常の嬉しいことや悲しいことなんかを二人で共有したり、二人で解消したりするのは、何より一人じゃないと思えて嬉しかった。

 携帯をチェックした絢が「あ、もう時間だ」と言ったので、私は次の曲を入れようとした手を止めた。

「このあとどうする?」
「あれ、絢、今日塾じゃなかったっけ?」
「もうめんどくさいから行かない」

 私は「またか」と思いながらテーブルの上の携帯をジーンズのポケットに入れた。

 絢と付き合い出して最初のうちは「そんなこと言わないで行きなよ」と冗談っぽくたしなめていたが、あまりにも頻繁に同じような理由でさぼるので、最近はもう何も言わないことにしている。

「ねぇ、清花」
「何?」

 ゆっくりと立ち上がって、私はごちゃごちゃしたメニュー表やらゴミやらを片付け始めた。
立つ鳥跡を濁さずだ。
ゴミはまとめて手前に寄せて、食べ終わった皿もその傍に置いておく。

「これから清花んち行ったら、須藤くんに会えるかな」

 ぱっと顔を上げると、「宿題忘れちゃった」と真っ白なノートを抱えているときと同じ、少し困ったような笑顔を見せる絢がいた。

 あぁ、本当に彼女は始末が悪い。
みんなその顔にはかなわないことを知っているのだ。

「来てもいいけど、わざわざ会いに行ったりはしないからね」

 出来るだけ妥協してそう答えると、絢は「いいよ」と今度はにっこり笑った。

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