み ず か
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庭には夢が埋まってる
パフェもピンクも選べない  [1/9]

 

「それで?」
「それで……って何。それでも何も、普通に夕飯食べてったよ」

 絢はそのままでも十分大きな目を更に見開きながら「まじですか」と仰々しく言って、安っぽい豹柄のソファーに勢いよく身を委ねた。
遊ぶとなると毎回のように訪れるカラオケ店の空気には、いつも煙草のまとわり付くような匂いが混じっている。

「で、ブレーカーはどうなったの?」
「私がご飯作ってる間に、お兄ちゃんと一緒に探したらすぐ見つかったんだって」
「ふぅん。相当慌ててたんだねぇ」
「さぁ、どうなんだか」
「ところで、どうだった?初めて喋った須藤くんは」
「思ってたより嫌な感じじゃなかったけど、やっぱよくわかんないやつだった」

 私は氷の溶けて薄まったウーロン茶をぐっと飲み干し、グラスを持ったまま目の前のマイクを見つめた。

 退出時刻まであと二時間。どれくらい歌えるだろうかと頭の中で簡単に計算をする。
一曲五分前後として、二時間で二十四曲、二人だから十二曲ずつくらいか。
でも絢のおしゃべりの時間があるから、実際はもっと少なくなるだろう。

「ていうかさ、握手くらいいいじゃん。そんなに気にしなくても」

 絢はそう言い、正面の私に向かって前のめりになった。
彼女の丸くて黒目がちな瞳が、薄暗い部屋の照明に反射してキラキラと光っている。

「気にするよ。だって一応、男子だもん」

 ドンドンドン、と一定のリズムでベース音が響いてくる。
それと一緒に「イェーイ」という無遠慮な叫び声が聞こえた。

 夏休み中のカラオケは平日の昼間でも学生客で溢れているから、お兄ちゃんいわく「いつもの倍疲れる」らしい。
無駄に大きい演奏や叫び声を聞き続けているだけでも煩わしいのに、と思うと、大学生になってからアルバイトばかりしているお兄ちゃんが少しだけ立派に思えた。
あぁでも、それが嫌ならカラオケでアルバイトなんて、最初からしなければいいのか。

「そうかなぁ。抱きつくとかなら考えちゃうかもしれないけど、握手くらいならいいじゃん。意識しすぎじゃない?」
「そんなもん?」
「そんなもんだよ。アヤなんか、キスより前なら何でもできちゃう」

 絢は声を出して笑い、「ねぇ、なんか食べない?」とおもむろにメニュー表を開いてパラパラとめくった。
薄暗い部屋の中でもカラフルだとわかるメニューの群れを見送りながら、私はポテトでも頼もうかとぼんやり思った。

「あ、私これにしよ!このパフェすっごいおいしそうじゃない?」

 ねぇ清花、と同意を求められたので、私は何も考えずに「そうだね」と答えた。
彼女は満足そうに「これに決定!」と言って、苺やら生クリームやらが華美に飾られたパフェの写真を指差して笑う。

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