み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [10/10]

 
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 男兄弟の欲しかったお兄ちゃんと、兄弟の欲しかった彼は気が合ったようで、二人で楽しそうにテレビゲームをやったり、部屋に引っ込もうとした私を引き止めて三人でトランプをやったりした。

 その途中で一度思い出したように「ブレーカー!」「あぁ、ブレーカーね!」と騒いで外に出たが、運よく逃げ出せた私がキッチンで料理をし始めた頃戻ってきて、夕飯が出来るまでの間、二人だけで真剣にババ抜きをしていた。

 不毛だと思われたその戦いは意外にも長く続き、たった三枚のトランプはまるで道に迷ったみたいに、二人の間を何度も行ったり来たりした。

 結局、彼は夕飯時までお兄ちゃんと遊んでいて、それから私の作ったカレーを絶賛しながら食べ、「またね」と満足そうに帰っていった。
私の心に、まるで大型台風の一過後のような、よくわからない脱力感だけを残して。

「あいつ、いい奴だな」

 お風呂上りの私が居間へ行くと、缶ビールを片手に一服するお兄ちゃんが背中越しにそう切り出した。
テレビの前であぐらを掻きながらそうしている姿は、いつ見てもお父さんそっくりだ。
違うのは、その髪の量と色だけだった。
「そうみたいだね」

 濡れた髪をタオルで拭きながら、私はふと彼の姿を思い出した。
少し濡れて波打った髪。笑うと更に下がる目元。
ごつごつした大きな手に、綺麗な首筋。
初めて間近で観察した彼は、どこまでも『男の人』だった。

 網戸から流れてくる夜風は、まだ熱を帯びた体を冷ますように吹き抜ける。
なんとなく風が冷たくなってきたような気がして、もうすぐ秋かな、なんて思った。
風に乗る私のシャンプーの匂いは、彼のものよりは甘くない。

「お前さ、」

 ぶぅーん、と間抜けな蚊の羽音がした。
反射的に顔を左右に振ると、まだ湿っている髪から滴が飛び散り、ぽつぽつと顔に降りかかった。
そうして揺れる視界の中に、自信に満ちたお兄ちゃんの顔がぼやけて映る。

「英知のこと苦手なんだろ」

 二人はよく似ていた。
派手なところとか、格好つけているようでそうでもないところとか。
何より、誰でもすぐに親しんでしまうようなその暖かな雰囲気が、とてもよく似ていた。

 私がとっさに「なんで」と返すと、お兄ちゃんはそれには答えず

「でもそのうち好きになる」

と言って立ち上がり、「あいつ、いい奴だからな〜」と言い捨てて居間を後にした。

 そんなの知ってるよ、という私の言葉は、脳裏に浮かんでいた彼の笑顔と一緒に、何も知らないテレビの向こうのキラキラした人たちの笑い声に掻き消された。

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