み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [9/10]

「いや、ブレーカー落ちちゃってさ。うち、ガスじゃないからお湯沸かせなくて」
「え……いつもどうやって沸かすの?」
「電気。うち、風呂もコンロも全部電気なんだ」

 庭付き新築一戸建てに、その上最新機器も付けて、築三十年のうちの家に喧嘩を売っているのだろうか。
本当に、彼はどこまでも私とは真逆の世界の住人らしかった。

「……でもポットは無事なんじゃないの?そんなにすぐ冷めないでしょ」
「ポット?そっか、それがあったか」

 そうして「なるほどね」と苦笑いを零す彼を見つめながら、私はふぅと小さく息を吐いた。

「意外とぼんやりしてるのね」

 少しの嫌味をオブラートに包んで、私は平坦な口調で言った。
何せ、彼は定期試験で満点を取ることも少なくなかったからだ。
そんな彼に届かない自分の正当化も含め、私は今まで彼を精密機械の生まれ変わりか何かだと思うようにしていた。

「うん。腹減ってるとさ、何やっても駄目なんだよなぁ。あと眠いのも」

 彼はそんな私の思惑など知らずに微笑み、それからその瞳を穏やかに揺らして「いつもさ」と続けた。

「伊織に怒られんだ、もう少ししっかりしろって」
「……伊織くんね」

 私は観察するような目つきで彼を見つめた。

 彼の言う『伊織』くんは、さっき尋問したところ、同級生の男子だということがわかった。
でも、どうして気まずそうな反応をしたのかを尋ねると、「いきなりライバルとか言うからびっくりしたんだよ」という具合にうまくかわされてしまうのだ。

 怪しい。
けれどとりあえずそれはそれとして、私は静かに息を吐いた。

 悪いやつでないことはわかったけれど、親しくなろうなんて気はさらさらない。
だからこれ以上の詮索も意味がない。
大体、弱みを握ったからといって、私の成績が上がる訳ではないのだ。
散々尋問しておいて、今更気付いたのでは遅いけれど。

「ごちそうさまでした。さて、そろそろ帰るよ」

 そんな私の浅はかな考えを感じ取ったのか、彼は優しくそう言って立ち上がった。

「まだ明るいうちにブレーカー探さないと、夕飯どころか、明日まで電気使えねぇし」
「え、お父さんとお母さんは?」
「二人で休み取って父さんの実家に行ってんだ。だから」
「じゃあうちで夕飯も食ってけば?」

 急に会話に入り込んだその言葉に驚いた彼と私が同時に振り返ると、そこにはお兄ちゃんがにんまりと笑って立っていた。

「どうせ清花が作るんだから食ってけばいいよ。またインスタントじゃ体に良くないし」
「え?サヤカちゃんが作るんですか?」

 彼は私とお兄ちゃんの顔を交互に見ながら尋ねた。

「うちも今日は親と妹いないんだ。俺とこいつだけじゃ味気ないし、遠慮しないで食ってきな」

 親切心だけではない、きっと。

 意味ありげに微笑むお兄ちゃんの考えが読めた私は、嬉しそうに頷く彼を尻目に眉を寄せ、心の中で大きく溜め息をついた。

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