み ず か
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庭には夢が埋まってる
太陽嫌いのヒマワリ  [8/10]

 左手にある箸を見たところ、どうやら彼は左利きらしい。
そういえば天才には左利きが多いって話があったな、なんてことを思い出す。
「この人ホントにいちいち癇に障るわ」と、彼の箸運びを見ながら私は小さく息を吐いて会話を続けた。

「一人っ子なの?」
「うん、たぶん」
「たぶん、て何よ」
「あぁ、ただの口癖だから気にしないで」

 私が「ふぅん」と答えると、彼は二、三度息を吹きかけてからゆっくりと麺をすすった。
その音が消える頃、私はうっすらと立ち上る湯気を目で追いながら付け足した。

「私は逆に一人がうらやましいけど」
「なんで?」

 視線を正面に戻すと、彼はまた麺をすくい上げていた。
それに吹きかける息の音を聞きながら、私は悪知恵の利くお兄ちゃんのいない世界をぼんやりと想像してみた。
少し刺激が足りなくなるような気もするけれど、まぁ、それもいいのかもしれない。

 勢いよく麺をすする音が鼓膜を通り抜けたのを合図に、私は想像を続けたまま会話に戻った。

「うち、四人兄弟だもん」
「まじで?サヤカちゃんは何番目?」

 スープを飲む静かな音がゆるゆると耳の奥を流れていく。

「三番目。お姉ちゃん、お兄ちゃん、妹」
「いいな、一人ちょうだい」

 冗談交じりで彼は笑ったが、私がぼんやりとしたまま即座に「いいよ」と言ったので、慌てて麺のなくなったカップをテーブルに置いて私に向き直った。

「冗談だよ、冗談」
「わかってる」
「……そう?」

 ふと意識を戻すと、目の前には迷子の瞳の彼がいた。

 やってしまった。
焦った私は苦笑いを浮かべた。
時々、自分の世界に入り込んでしまい、他人のことを構わなくなってしまうのが良くない癖だ。

 私は「ごめんごめん」と手を合わせ、

「ところで、何でお湯なんかもらいに来たの?」

と話を逸らした。

 彼は私の様子に少し戸惑ったようだったが、

「あー、それね」

と言った後、苦笑いを浮かべてテーブルの上に頬杖をついた。
喉仏のくっきり見えるすっとした首筋は、明らかに男の人のものなのに私よりずっと綺麗で、一瞬どきりとした。

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