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みょうじなまえ、16歳。華の高校二年生。
好きなものは動物全般で、嫌いなものは虫とかホラー系の映画とか。
得意な科目は英語で、苦手なのは数学。っていっても、平均点を多少前後する程度の差だけど。
普通の学校で普通の高校生生活を送る、普通の女の子です。
だったはずなんだけど。
 
「なまえ〜!英和辞典貸してくれ!」
「なまえ!一緒に昼メシ食おうぜ!」
「なまえ〜!」
 
苗字すっ飛ばして名前呼びですよ…!は、恥ずかしい!
  
あの告白事件から3日、西谷くんは毎日、毎時間と行っていいほど私のところに来る。
最初は苦笑いしてた私の友達も、今では菩薩のような慈悲の笑みを持って、いや「若いっていいわねぇ」って笑う近所の噂好きのおばさんのように私たちを見ていた。
助け舟を出してくれたっていいと思うんだ。
あまりにも煩いものだから、うちのクラスの担任が「騒ぐなら自分のクラスで騒げ!」と注意していたのだが、
西谷くんはいつもの通り大きな声で「今猛アタック中なんで、無理っス!」と堂々と宣言していた。
面を食らった教師は「そ、そうか」と言っただけでそれ以来一度も彼を咎めない。
そこはもうちょっと粘ってほしかった。
アタックをするのは部活だけにしてほしい。
 
 
私だって普通の高校生なんだし、恋愛に興味がないわけじゃないし経験が0なわけでもない。
告白されるのだって嬉しい。あんな形じゃないければ。
皆の前であんな大胆告白されて、うんと言える勇気なんてあるはずなかった。
だって、絶対後でネタにされるもん。もうされてるけど。
今だって窓側の男子の群れがこっちを見てニヤニヤしてる。やめてください見ないで!Don't look me!
 

「どうしたなまえ、具合でも悪いのか?」
 

恥ずかしくてずっと下を向いてる私の顔を、西谷くんが覗きこむ。
「そ、そんなことないよ」と言いつつ体を反らして彼と距離をとった。何で毎度こんなに近いんだろう。
そんな私の心情を知る由もない西谷くんは、「なんかあったら言えよ!」と、ニカッと笑う。
…うん、顔は悪くない。むしろかっこいいんだけどさ。なんだかなぁ。
 
「次体育だろ?行こうぜ!」
 
そういえば体育は隣のクラスと合同授業だった。
なるほど、それで西谷くんは体育バックを持ってるのか。
私の返事を聞かずに、机の横にかかっている私の体育バックをとると「ほら早く!」と私の手首を掴んだ。
 
ちょ、ちょっと早いよ!
いつも一緒に体育館に向かう友達をちらっと見ると、案の定にこやかに手を振っていた。くそぉ!
 
 
 
 

 
合同と言っても、無論男女別である。
体育館を半分にして、女子はバレー、男子はバスケ。
運動があまり得意なわけではない私は、他のチームの試合を友達と一緒に観戦していた。
クラスのイケイケ女子は男子の方に釘付けで、シュートが決まる度に「キャーッ」とか言っていたけど私たちは先生に注意されない程度におしゃべり。

「ねぇなまえ〜、実際のとこどうなの?」
「え、何が?」
「何って、西谷くんのことよ!もう付き合っちゃえばいいんじゃない?」
「えぇっ」
 
このこの〜と肩で突いてくる友達二名の言葉に必死に首を振る。
その様子を見た二人は、苦笑しながら言った。
 
「まぁ確かに、西谷くんと付き合うと色々大変そうだよね」
「何より目立ちそう!」
 
そう、その通りなんです。西谷くんが嫌というより、目立つのが嫌なんです。
「顔は悪くないのにね」と、友達がちらりと男子の方に目線を向ける。
丁度西谷くんがシュートを決めて他の男子とハイタッチをしている場面だった。
 
 
ばちっ
 
 
西谷くんと目線が合う。彼はまたあの輝くような笑い方をすると、
 
「なまえ!見たか!?」
 
と体育館中に響くような大きな声と共にぶんぶんと私に向けて手を振った。
周りの男子が「調子こくなよ西谷〜!」と彼の背中をバシンと叩く。
バレーをしている女子たちもくすくす笑ってこちらを見た。
私は恥ずかしさに真っ赤になりながら俯く。本当、やめてください!
 
下を向いていた私は、女子のバレーボールが飛んでくるのに気付いていなかった。
 
「なまえちゃん危ない!」
 
誰かの声が聞こえる。はっと顔をあげた途端頭に強い衝撃を受け、世界が反転する。
同時に転んでしまったようで、お尻が痛い。
なまえ大丈夫!?と友人二人の慌てふためく声を聞きながら、私は思わず頭を抑えた。
どうやらスパイクが誤って私の方向に飛んできたようだ。
多少目がチカチカするものの、心配させまいと何とか笑みを浮かべ立ちあがろうとする。
が、足首にずきりと鈍い痛みが走る。思わず顔をしかめた。
 
「あ、ちょっと足捻ったみた、」
「なまえ!大丈夫か!?」 
 
すべての言葉を言い終えないうちに、目の前に彼のドアップ現れる。
足首を抑えてる私を見て「足捻ったんだな!?」と叫ぶ。いや、今それを言おうとですね。
 
 
「先生!俺、こいつ保健室に連れてきます!」
「はっ!?」
 
 
そんなに重体じゃないと言おうと思ったが、その前に体がふわりと宙に浮き言葉が引っ込む。
気がつけば西谷くんの顔が異様に近い。
 
「え、ちょ、西谷くん」
「しっかり掴まってろよ!」
「え」
 
すぐ近くで西谷くんの声が聞こえたかと思うと、とたんに走り出した彼に「ぎゃあっ」と悲鳴をあげてしがみ付く。
これはまさに、あれじゃないか。
ぐわんぐわんと頭が揺れる中、必死に今の状況を理解する。
漫画でしかみたこと無い、というより今の時代漫画でも滅多にない、お姫さま抱っこをされてるんじゃ…!
 
体育館中の目線が私たちに集まっていた。体育の先生もぽかんとしてこちらを見ている。
ぎゅっと目を瞑っている私を見たからか、西谷くんは走りながらも慌てた様子で
「痛いか!?もうちょっとだからな!」と励ましてくれた。
ありがたいけど、違うよ恥ずかしいんだよ!
そんな言葉を言うこともできず私はただ西谷くんに捕まっていた。
 
 
 
 
 
 
 
お決まりというか、なんというか保健室の先生はいらっしゃらなかった。
西谷くんは手際よく冷蔵庫から氷を取り出すと、私の足に当てて冷やしてくれた。
なんていうか、男子に足を触られるってなんか恥ずかしいなぁ。
そわそわする私を見て西谷くんは私がまだ痛いと勘違いし、大丈夫かと言いながら頭を撫でてくれた。

「ありがとう西谷くん、手際いいね」
「まぁ運動部だからな!」
 
俺もしょっちゅう怪我してるし!と笑う西谷くん。
そういえば彼には至る所に絆創膏が貼ってある。痛そうだ。
「大丈夫なの?」と、「怪我なんて男の勲章だから問題ねぇよ!」と笑われてしまった。 


「あ、あの西谷くん」
「なんだ?」 
「私の何処を好きになったの…?」

テーピングを巻き始めた西谷くんに、ずっと疑問に思っていたことを口にする。 
だってまず、接点がないではないか。
西谷くんはとたんに静かになり、テーピングを巻き終えるとすくっと立ちあがりじっと顔を見られた。
居心地が悪いことこの上ない。なんか喋ってくれないかなぁ。
西谷くんはいつもの大きな声は何処へやったのやら、やけに落ちついた声で話し始めた。
 
「部活の朝練がある時に、偶然兎小屋の前を通って」
「え、うん」
「兎に餌やってるお前を見て、」
「…?」
 
目線が絡む。いつも思うけど、キラキラしててとても綺麗な瞳だ。
 
 
 
 
「お前に惚れた」
 
 
 
え、それだけ?
 
 
 
確かに私は生きもの係りで、毎日皆より多少早く学校に来て兎に餌をやっているけれども。
それの何処に惚れる要素があるのか、分からない。
それでも西谷くんは相変わらずニカッと笑ったので、戸惑いながら私も一応にこっと笑っておいた。
 
 
 
家に帰っても綺麗に巻かれたテーピングを見るたび、西谷くんのことを思い出した。
お風呂入るの、ちょっともったいないなぁ、なんて思ったり。なんてね。
 
 

Shining Eyes
(最近ノヤさん、朝練来るの早くね?)
(おう、ちょっとな!)
(何してんだ?)
(秘密だ、ひみつ!)
((ノヤ楽しそうだなー…))

 
 
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