霊感少女Sの非的日常。 | ナノ


  




机の上に置かれた一枚の紙を見る。
今の状況を整理しようと思い、俺が書いたものだ。
そこに書いてあるのは小夜ちゃんと俺の名前と、俺から彼女へ伸びてる矢印とハートマーク。
ちなみにヘタクソな似顔絵つき。似てない。
彼女から俺に対してそれを書くことはできず、はぁと深くため息をついた。
 
黄瀬涼太は久遠小夜のことが好きで。
でも彼女は俺のこと、どう思ってるんだろう。
 
ふと、そんなことを思った。
普通の女子なら、俺に対して確実に悪い印象は持っていないだろう。
が、残念ながら彼女は普通の女の子とは言い難い。そこがいいんだけれども!
なんせ出会いが出会いだし、この間だって俺の元カノ(主悪いのは俺)が彼女に迷惑をかけたのは生涯忘れることはできない。
 
 
結果、どう考えても、
 
 
「好かれてるわけない…」
 
 
がくっと項垂れる。恋って、こんなに難しいものだったのか。
今まで告白されたことはあるが、したことはない。どうすれば今までの名誉を挽回できるのだろう?
皆目見当もつかなかった。
 
 
誰かに、相談しよう。
 
 
思い立ったが吉日、さっそく携帯を開く。
海常の人は駄目だ。噂が広まってしまったら俺が、何より彼女が困る。
口が堅くて、真面目に相談に乗ってくれそうな人。
友達リストをぴっぴと巡るも、中々希望に添えるような人は見当たらない。
 
あのガングロは面白がるだけだし絶対噂になるから却下、2人は相談するには遠いし、あの眼鏡に恋愛相談をしようなどとは到底思えない。
 
そうなると、やはりこの人しか残らないか。
迷わず決定ボタンを押すと、高校生特有の早さで内容を打ち始めた。
 
 
 
 
 
 
 

 
「で、相談って一体何なんですか」
「明らかにめんどいって顔してるっス!」
「君の話は長い上に要点が掴めませんから」
「ひどっ!」
 
そう言いつつも、何だかんだで了承してくれる彼はやはり優しいのだ。
待ち合わせは土曜日のお互いの部活が終わった午後5時ごろで、場所は彼が好きなバニラシェイクが売っているところ。
この前練習試合をしたばかりだというのに、テーブルを挟んで向かい合うとなんだか懐かしい気がした。
多分黒子っちはそんなことは思っておらず、シェイクをスゴゴゴという音を立てつつ不思議そうな顔でこちらを見る。
 
 
「それにしても黄瀬君が相談事なんて、珍しいですね」
「俺、普段悩み事になんてできないっスから」
「…羨ましい頭ですね。で、早く本題に入ってくれませんか」
「うっ…」
 
 
自分なりの考えはまとめてきたが、いざ人に話すとなると少しばかり恥ずかしかった。
ごにょごにょ言う俺に堪忍袋の緒が切れたのか、ドンと大きな音をたててバニラシェイクをテーブルの上に置く。
 
「イライラします、早く話してください。誘ったのはそっちでしょう」
「は、はい」
 
こうなった黒子っちはとても怖い。覚悟を決め、俺は口を開いた。
もちろん小夜ちゃんのあの特性は隠して話すつもりだ。
 
 
「あの、ですね…女の子に好きになってもらうには、どうしたらいいんスかね…?」
 
 
俺の言葉を聞いた瞬間の黒子っちの顔を、俺は一生忘れないだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼の言葉を聞いた瞬間、思わず口を開けてしまった。
 
黄瀬くんからメールが入っていたのは2日前の木曜日のこと。
彼からメールを貰うこと自体は珍しくなかったので、またどうせくだらない内容だろうと思い受信メールを開く。
そこには普段のおちゃらけた雰囲気は無く、3行程度で「相談に乗ってほしい」との趣旨が簡潔に書かれていた。
顔文字や絵文字を乱用する彼にとっては珍しいことだ。真剣な相談だろうか、というよりポジティブの塊のような彼が悩むということに驚きだ。
自分が力になれるのなら、と返すと3分と経たず「いつ空いてるっスか!?」と返ってきた。相変わらずの返信速度だ。
かこかこ返事を打っていると、購買での戦利品を手にした火神くんが教室に帰ってきた。今日も大量である。
 
 
「黒子が昼休みに携帯開いてんの、珍しいな」
 
 
どかっと僕の目の前に座り、さっそく焼きそばパンを頬張る。
そうですかね、と返すと「おお」とあまり興味が無さそうな声が返ってきた。
 
「黄瀬くんが、相談に乗ってほしいって言うので」
「黄瀬ェ?あいつが悩むことなんかあんのか?」
 
酷い言いようだが、ついさっき自分も同じようなことを思ったので言わないでおく。
あの時はまさか相談の内容がこんなことだとは思わず、「自分かっこよすぎて困るとかじゃねぇの」と火神くんの言ったことを笑った。
 
 
女の子に好きになってもらうには、どうしたらいいんスかね 
 
 
まさかこんな、彼の口から、こんな言葉を聞くなんて。
自分は今夢の中なのだろうかと思い頬を抓ったが痛い思いをしただけで、嫌でも現実だと思い知らされた。
夢でなければ明日は隕石でも落ちるのだろうか。急いで避難しなければ。
 
「黒子っち、聞いてる?」
「あ、すみません。よく聞こえませんでした」
「もう、しっかりしてくださいっス」
 
ぷーっと頬を膨らませる黄瀬くんは正直ちょっと気持ち悪かった。男がやって気持ちがいいものではない。
もう一度すいませんと言い、話を促す。
彼女、久遠さんの話をする黄瀬はとても楽しそうで僕の目から見ても明らかに恋をしていた。
その後よくよく話を聞いて、僕はある可能性にたどり着く。
 
「黄瀬くん、あの」
「何スか?」
「もしかして、初恋ですか?」
「えっ…」
 
僕の言葉が意外だったのか、彼のマシンガントークが止まりその代わりに目が大きくが開かれる。
 
「そ、そうなん…スかね」
「一度でも恋したことがあるなら、こうなりませんから」
 
高校生になってから初めて初恋を経験するというのは何処の漫画だろうかとは思うが、普段女性に困らない黄瀬くんならば十分に有り得そうな話だった。
馬鹿な想像して笑ってすみません、と心の中で謝る。事態は意外に深刻であった。
うわわわどうしたらと騒いでる彼にうるさいですとチョップを加え、黙らせる。
僕自身恋愛経験に関しては豊富なわけではなく、むしろ彼の方があるのではと思われるのだが初恋となるとまた別の話だ。

 
「とりあえず、久遠さんをもっと知ることから始めてはどうですか」
「もっと知る…」
 
見れば黄瀬くんは凄い顔でメモをとっていた。恐ろしいくらいの形相だ。
それでそれで、と続きを促されうーん、と考える。
 
「例えば、彼女の趣味を聞きだすとか」
 
知らないんでしょう、と問えば彼は激しく首を縦に振った。
こんな真剣な顔をしている黄瀬くんをバスケ以外で見るのは初めてかもしれない、とぼんやり思う。
それだけ彼が本気だということだ。
恋愛に関して不自由をしていなかった彼をここまでにする久遠さんとは、どんな人なんだろうか。少し会ってみたい気がする。
それを黄瀬くんに言うと、一瞬考えた後言った。
 
「黒子っちと似てる部分あるかも」
「え、なんかそれ嫌です」
「ひどっ!でも、きっと仲良くなれるんじゃないスかね」
 
いつか紹介してくださいと言うと「そうなれるといいんスけど」と苦笑しながら、それでもふわっと笑った。


結局解放されたのはそれから2時間後で、辺りはもうすでに暗くなっていた。
 
 
 
 

 
 
 
「…よし」
 
黒子っちと別れ自宅に戻り、真黒になったメモ帳を見て一言呟く。
やはり彼に相談したのは正解だったようだ。かなり道が開けてきた。
お礼に奢ると申し出たのだが、友人に奢ってもらうのは好きじゃありませんと断られ大人しく引き下がった。
頑固で律儀なところも変わらないなと思い苦笑し、結局自分の分だけ払った。
 
とにかく明日からの目標は、彼女を知ること。
あわよくば、近づくこと。
本当は今すぐ想いを伝えたかったのだが、黒子っちにそれはやめた方がいいと止められた。
 
恋って難しい。
改めて思った。
 
 
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