小説 | ナノ

 2話




「『消えてしまえばいい』」

母親を苦しめる奴なんてみんな、と言い放った瞬間その場にいた男達が皆、自ら首を切り自決した

飛び散る血と母親の悲鳴
ナマエは別段驚きはしなかった
だがその反応を見た母親が「ば、バケモノ!!」と言い放ったのをきっかけにナマエは現実に引き戻された

「…お、お母さん…?」

「来ないで!来ないでぇぇ!」

母親は身近にあった茶碗や皿などをナマエに投げつけてナマエの足元で割れた皿がナマエの足を傷つける

今まで優しかった母親が豹変し、まるで化け物を見るような怯えた目で見られるのが耐えきれずナマエはその場を走り去った

辛さに耐えかね出てきたはいいもの小さな島国では逃げ場はなく海辺まで出たナマエは目についた小さなボートに身を投げ船についていた重りを外した

揺れる小舟の中でナマエはひたすらに泣いていた
泣き疲れて眠った後は朝日で目が醒めるまで熟睡していた

目が覚めたとき知らない街の港に着いていた
ナマエは自分の村以外の町、それも見たこともない煉瓦造りの建物や沢山の人に混乱し建物と建物の間の陰に身を潜めた

喉が渇いた、お腹がすいた、足が痛い

時折こちらを見ては話しかけてくる大人がいたが、ナマエの目を見た途端好奇に満ちた目で「着いて来い」と言い放つ

「『近寄るな』」

ナマエがそう命ずると大人達は皆大人しく帰っていく

何人目になるのか日が暮れ初めて辺りを歩く大人達は怪しげな雰囲気を纏った者が多くなっていく

物陰に息を潜めていたナマエを見つけた男組が「こいつは売れるぞ!」と興奮気味にナマエの腕を掴む
その瞬間は痛くて声が出せなかったが男達に連れ出され物陰から引きずり出された途端思わず言葉が出る

「『消え…「そこまでじゃ」

最後まで言う前に1人の老人に言葉を遮られ
ナマエを掴んでいた男達は「…なんだ爺さん」と怒りを露わにし老人を囲む

男の1人が老人の胸ぐらを掴み上げると、老人は老人と思わせぬ武術、力技で男達を退いた

「大丈夫かい?お前さん」

「…だ、大丈夫」

丸一日以上飲み食いしなかったナマエの声は掠れていた
それを聞いた老人は「飲みなさい」と水を差し出した

初めて人の優しさに触れた気がした
ナマエは涙をこぼしながら水を飲んだ





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