短編 | ナノ
 好奇心が止められなかったんです。






拙者は今、付き合っている大好きな監督生に土下座している


腹を切る覚悟で額を地面に擦り付けている。冷や汗が止まらん
そんな拙者をいつも優しい目をした彼女が冷たい目で見下ろしています





どこから話せば良いのやら

監督生とイデアは付き合い始める前から一緒にゲームやアニメを見る仲であった
初めはオルトやグリムも居たがオルトはメンテ時間もあって夜中に長時間活動はさせられないし、グリムに至っては「アニメなんて興味ねーんだゾ」と早々に振られてしまった
そこから2人で過ごす時間が増えて監督生は見た目が綺麗で性格もたまに毒づくが優しくて意外と面倒みも良いイデアの事を徐々にお友達から男へと認識し始め、イデアに至っては監督生と2人きりになった途端に恋に落ちた始末だ

馴れ初めを書き出すと何万字と行くので割愛するが、そんなこんなでお付き合いが始まったがやる事は友達の時とそう変わらず監督生でも出来る簡単なゲームやちょっとコアなゲーム、色んな種類のアニメを見たりして過ごしている

恋人らしい事もしたいがイデアはどうしていいか分からず、少し難しいゲームを提案して負けた方からハグする、とかそんな中学生もやらない恋をしていた
今のところ友達9割恋人1割ぐらいである


「お、お邪魔しまース...」

「いらっしゃい、イデアさん。外寒くなかったですか?」

「ん、平気」

「強がっても鼻先が赤いですよ、温かいココアでも入れますね」


オンボロ寮に来たイデアを笑顔で迎え入れる監督生に、イデアは外はもう白い息が出るほど寒かった癖にカッコつけたはいいものの一瞬で見破られフフと笑われて情けなくなり眉を下げて鼻を啜った

監督生がココアを入れている間にもう定位置になってしまったソファーの右側に深く座って行儀が悪いと分かっていても両膝を立ててしまう
いつの間にかオンボロ寮はイデアにとってのセーフハウスの様な認識をしていたからイデアなりの「寛いでます」という分かりにくい合図なのである


「ココアどうぞ」

「ありがと」

「今日は何しますか?ゲームですか?アニメですか?」

「フヒヒ、じ、実はね僕の好きなアニメの2期が今日から配信してるんだッ」

「え!なんてアニメですか?私見た事ありますか?」

「もちのろん、少し前に一緒に見た【マジカルスタート・らるらん】の続編!【マジカルライジング・らるらん】ですぞ!」

「なん、ですって...!」



イデアは危ないので持っていたココアを机に置いて興奮気味に監督生に詰め寄る
そしてイデアの説明を聞いた監督生は目を開いてイデアを見つめ返した

スタート・らるらんとはイデアに勧められて一緒に見たアニメ作品の一つで監督生も大好きであった

続編希望の声が多数あったがすぐには作らずきっちり1年半は寝かされた作品である



簡単に言うと主人公はトメさんという70歳のおばあちゃんであるが、ある日喋る可愛い動物に「僕と契約して魔法少女になってよ」と言われ変身すればプリプリの女子高生戦士らるらんとなって悪と戦う物語である

監督生はこの世界にも魔法少女戦士が居た!と嬉しくなって必死にトメさんことらるらんをイデアと泣きながら応援していた



「あのアニメの続編...!?楽しみすぎます、どうしよう1話から泣いちゃうかも」

「分かりますぞー。1年半も待たされましたからな!」

「1期は今見ても泣けます。特に四天王の1人ナガイモが戦いに巻き込まれそうになった子供を助けて負けてしまった回!」

「何度見ても朽ちぬ作品ですな...拙者は四天王の1人サツマイモがあと少しでらるらんを倒せたにも関わらずトドメを刺さずに話し合いをした回ですな!」

「でもやっぱり!」

「そう!四天王率いるイモーズは実は子供から苦手な野菜ランキング1位に入ってしまい悲しみから魂宿るモンスターになっていたって言うラスト!!もう拙者3日は目が腫れてたでござる」

「本当は子供達に喜んで野菜を食べて欲しかった、だなんて...!私イッキ見した日から1ヶ月芋生活してました」


傷だらけで必死に戦うらるらんと悲しいモンスターは両者共に熱いファンが着いた作品である
イデアは何度も見ているが初見でイッキ見した監督生と2人でずびずび鼻水を垂らして泣いたラストは心に深く残っていた

その作品の2期が配信されたと言う事はあの感動をもう一度...!じゃないか!と歓喜した
もちろん今日から配信なのでまだ1話しか出ていない

監督生は急いでテレビを付けてイデアはタブレットを操作しテレビと繋げる

そこで監督生はハッとした


「イデアさんリアタイしなかったんですか?」

「えと...うん、拙者も初見。......君と一緒に泣きながら見たアニメだったから...その、一緒に、見たくて」


イデアは自分で言ったにも関わらず喋っている最中に段々恥ずかしくなって体を縮こませて両手を前にして意味もなく人差し指をいじった

少し赤くなって可愛く白状するもんだから監督生はキュンとしてイデアの隣に座って「嬉しいです」と肩と肩をぶつからせた
突然の至近距離にイデアはドギマギして目を泳がせて若干汗をかいてしまったが

頑張って虚勢を張って「参りますぞ!」とテレビと繋げたタブレットから再生ボタンを押すとテレビから【マジカルライジング・らるらん】とポップなタイトルロゴとOPが流れる

2人はさっきまで若干甘い雰囲気で本当なら肩をぶつけた監督生に男らしく詰め寄るチャンスであったにも関わらずそれに気付かず子供のようにテレビ画面に夢中になった

オタクというものは1周目は黙って見るものである。特に誰かと見る時は。例え感情が荒ぶり伏線では!?と思っても1周目は口を挟まない。何故なら一緒に見ている相手も自分自身も喋っていて今の会話聞き逃した!なんて事にならない為である
感想を言いながら話すのは2週目以降、ここが伏線だったんだよやっぱり!とか、この時のカット美しい!とか作画も設定も神すぎる!とかキャイキャイはしゃぐのは大抵2週目から
なので2人はOPでテンションMAXになっているが2人ともアニメの最中は喋らなかった



1期の最後に力を無くしたはずの主人公トメさんはまたも喋る可愛い動物に「君の力がまた必要とされているんだ!」と再契約を交わし魔法少女になる為の力を得たらるらんが新たな敵の末端であろう者を倒した所で本編はほぼ終わりに差し掛かった

そこでカットが変わり日傘を差した黒髪の美しい少女が肩に黒い猫を乗せて戦い終わったらるらんを影から無表情で見つめていた
そしてその視線に気付いた喋る可愛い動物は「2人目の戦士が来たようだね」とニヤリと笑ってEDに入った



イデアは固まった
内容は勿論神作品なのだがそれ以上に新キャラ登場に燃えた
新キャラ登場とはアニメファンなら誰しも通る激アツ展開であるがそれとはまた違う萌えを感じ取った

最後に出てきた日傘を差した美少女が、監督生にとてつもなく似ていたから

サラサラの黒髪ストレートヘアーは日傘から盛れる少しの光に反射して綺麗な天使の輪を作っていたし、アニメでは珍しい同じく黒い瞳は大きくクリクリ開かれ、睫毛も影ができるぐらい長くて、頬に少しだけ赤みがあって童顔で...なんなら黒猫もグリムに見えてきた


EDが流れているにも関わらずイデアはチラッと画面から目を離して監督生を見つめてしまうほどに監督生は新キャラと似ていたのだ


「はーっ!面白すぎる!新キャラ登場って!!...ってイデアさん?」

「ッ!あ、あ、ヤバかったですな!?胸アツ展開多すぎて情報過多ですぞ!」

「最後にちょっと出てきた女の子、新キャラですよね!早く2話が見たいーっ」


監督生の声に引っ張られてアニメが終わったんだと気付いた
自分からこのアニメ見ようとか言っておいて監督生を見つめていたなんてバレたら羞恥心で死ねる、と目を泳がせて精一杯感想を言い合ってその日はお開きになった


そして自室に帰ってすぐにPCを付けてライジング・らるらんの公式ホムペが更新されているのを確認し新キャラについて書いてあったので熟読した


まぁ変身前の容姿の設定と早戸知立 舞(はやとちり まい)と言う名前、そして肩に乗せていた黒猫の名前はネルルン。紹介文には「2人目の戦士と言われているが_!?」としか書いていない

ここから先はネタバレ防止のため回が進むに連れて情報解禁と言ったところだろう

しかし改めて見ても監督生に似ている

そこでイデアは抱いた事ないムズムズした気持ちを悟った

監督生、この新キャラのコスプレ絶対似合う。と

これまで女の子とアニメを見る機会なんて勿論皆無だったので初めて浮き出た好奇心だった

だがこんな気持ち悪い事頼むどころか思ってると勘づかれただけで死刑確定では!?と正気を取り戻して頭をブンブン振ってその後シャワーの最中も布団に入ってからも「煩悩滅却煩悩滅却ドーマンセーマン」と呟いて気絶するように眠った


しかし寝て起きても脳内で新キャラのコスプレをする監督生を想像してしまうものだからイデアはタブレット参加の授業も実体で出なければ行けない飛行術の授業も全てサボって部屋で念仏を唱えて超えては行けない一線だ、と丸一日座禅を組んで過ごした


そんなイデアの努力も虚しくライジング・らるらん2話でイデアの思考回路はショート寸前どころか雷に打たれて唱えていた念仏は全てパァになってしまった

何故なら新キャラ、早戸知立舞ことまいまいが2人目の魔法少女として変身したコスチュームを見てしまったから

青と黒を基調としたXラインのワンピースでスカートの部分は丈が短いフィッシュテール型コスチューム、丈が短い為スカートの裾は全て上品な黒のレースでボリュームを効かせたさながら麗しい魔法少女が公式から叩きつけられたのだ


オンボロ寮で一緒にアニメを見ていたはずがイデアは気付いたら自室で公式ホムペにアップされた衣装の把握をして衣装の型紙を作っていたし、金属パーツやら工学部品は山ほどあるが布生地が無いので気付いたらサイトで生地を吟味してカートに入れてポチっていた

1度何かに没頭すれば寝る事さえ忘れて監督生からの連絡も、ましてや他の誰かからの連絡も全て無視というか気付かなかった


「で、出来てしまった...」


ついにイデアは1週間ほどかけて完成してしまったまいまいの魔法少女コスチュームを見下ろしてから我ながらやはり完成度高いのでは?と高揚すると同時に何やってんだ?と冷静になってしまい死にたくなった

そしてのろのろベッドに倒れ込んでスマホを見ると寮生からの連絡や仕事の依頼、そして監督生から「最近連絡が無いですけど、何かありましたか?」と連絡が入っているのを見て監督生に着て欲しくてコスプレ作ってた事実に打ちひしがれやはり死にたくなった

最後の連絡は監督生からの「流石に心配なので今からイデアさんの部屋に向かいます」と数分前に連絡が来ていた事に気付いてベッドから飛び上がって証拠隠滅のために大量の型紙や布地、魔法ステッキなどの小物を空いた段ボールに詰めている時にノックの音がして心臓がひゅん、と小さくなる


「イデアさん?大丈夫ですか?私です」


やばいやばい、こんな物見られたら人生終わるどころか監督生に愛想つかされる!と大量のコスプレ関連の物をゴチャゴチャと片している時、外で監督生はイデアから返事が無いことに部屋で倒れているんじゃ!と不安を抱きドアを開けた


「大丈夫ですか?入りますよ!」

「あ、まっ」


やっと声を出せたのも時すでにおすし。
床に両膝を着いて両腕には沢山の布地、主にコスチュームのボリュームにこだわる為に注文した黒のレースをひしと抱き締めながら冷や汗をかいているイデアと監督生の目が合った

こんなもの何も知らない監督生からしたら“浮気相手の女物の服を証拠隠滅の為に片している最中の男”以外にどう映るんだ

ドアノブを持ったまま監督生は固まったしイデアも衣類を抱きしめて固まった
監督生の視線がイデアの腕の中の衣類に向いていると気付いたイデアがとりあえず衣類を床に放り出して両手を頭の上に組んだ
別に銃を突きつけられている訳では無いがそれよりも恐ろしかった


「...イデアさん、それは?」


いつもニコニコ頬を赤らめている監督生の顔から全ての表情が抜け落ちてまるで能面みたいな顔と目付きで両膝を着いているイデアを見下ろした
イデアは掛けられた声にビクッと肩を揺らして脳内でどう言い訳すればいいのか100通りぐらい出したけどどれもバッドエンドに繋がる物ばかり


「言えない事ですか?」

「ち、違う、違いますっ」

「連絡も取れないので心配しましたが他の女性と会う暇があったんですね」


顔を真っ青にしたイデアに抑揚のない声で監督生が話しかけるとイデアはやっと監督生が勘違いしている事に気付いた


「へ?あ、違う!誰とも会ってないから!誰の服でも無いから!」

「じゃあ一体何なんですか?その大量のレース」

「うっ...」

「やっぱり言えないんじゃないですか」


このままではとんでもない勘違いで縁を切られるとイデアは腹を括り頭の上で組んでいた手を正座している太ももの上に置いて監督生に助けを乞うような目線で見上げた


「す、...僕を、捨てないって、約束、してくれる?」

「内容によります」

「君が思ってるような、その、浮気、とかじゃないから」

「...分かりました。話を聞きましょう」


なんとか監督生の了承を得たイデアは太ももの上に置いていた両手を床に着けて、土下座した

腹を切る覚悟で額を地面に擦り付けて本当の事を言う


「新キャラ...まいまいの...コスプレを、作っておりました」

「はぇ?」


次に訳が分からなくなって馬鹿みたいな声を出したのは監督生
放り出された布を見ると確かに青と黒の布地とレース、よく見ると後ろの箱にステッキみたいなのが突っ込んである

勘違いだった事にハァーっと深いため息を着いて監督生は土下座しているイデアの前に座り込んだ


「びっくりしました、浮気されてるんじゃないかと思って」

「100回生まれ直してもありえないです」

「じゃあどうして隠す様な真似を?...まさか誰か女の人に着せるため...?」

「アッアゥッァ、」

「当たりなんですね!?誰ですか!その女の人は!」


せっかく静まった監督生の怒りがまた沸騰してしまった
やっと勘違いを正せたのに、イデアの両肩を掴んでグラグラ激しく揺らす監督生にイデアは目を回しながら生理的な涙を浮かべてプライドを全て投げ打って震える手で監督生を指さした

指をさされた監督生は顔に疑問符を浮かべて5秒黙ってから意味を咀嚼する


「...私、ですか...?」

「ごめんなさい、好奇心だったんです。止められなかったんです。まいまいが監督生氏にそっくりで2話のコスチューム見た時からまいまいが監督生氏にしか見えなくて訳分からなくなって気付いたら作ってました。本当にごめんなさい。変な考え思い付かないようにディ〇ニーとあらゆる国の聖書全部読むまで出られない部屋入ってくる。生きてるだけでデジタルタトゥーの藁人形作ってごめんなさい。一家団欒ってでっかく描いたTシャツ着て島一周してくるんで、もういっそコナンくんと2人っきりになります」

「落ち着いてください」

「アッハイ」


目に涙を溢れそうなぐらい溜めて、顔を真っ青にして俯いて謝るイデアに監督生は可愛い人だな、と微笑んで、イデアが放り投げた服を掴んだ


「良いですよ、着ても」

「ファ!?!」


勢いよく顔を上げたイデアの視界いっぱいに監督生の優しい笑顔が広がる
天使、女神、天女、ペルセポネ?
こんな気持ち悪い僕の行動を認めてくれるのか、と救われた矢先、監督生は表情を一切変えずに言った


「イデアさんはネルルンのコスプレしてください。一緒にまいまいとネルルンのツーショット撮りましょう。ね?」

「...は?」

「嫌なんですか?ここまで精密なコスチューム作っておいて?...あ、イデアさんが1週間も音信不通で授業にも出てないから先生や寮生達は心配してるでしょうね。私から説明しておきましょうか?彼女の為にコスプレ作ってたって」

「めぅ...」


イデアはもう首を縦に振るしか無かった
イデアのライフはもう0よ!死体蹴りも程々にして!




結局イデアは追加で自分が着る為のネルルンの黒猫コスプレを作り監督生とコスプレした

測ってもないのに監督生のまいまいのコスチュームサイズがぴったりで少し監督生は引いたがそれ以上に呪詛を巻き散らかしてネルルンのコスプレをするイデアを見ると笑顔になった



はっぴー

後半と後日談書くと長くなるのでやめました




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