の続きみたいな感じです


「なあ、聞いたか?」
「あの話だろ?」
「え、何アレってマジなの!?」
聞こえない聞こえない聞こえない
「いやマジらしいんだよそれが」
「うっそ、信じらんねー…」
「俺も最初は信じられなかったんだけどよ」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない
「平和島静雄に彼女ができたとか」
もう 聞かない、

足をがむしゃらに動かしてその場、大通りを走り抜ける。
放課後帰ろうとして下駄箱で靴を履き替えているとたまたま聞こえてきた会話に耐えかねて。
人ごみの中にいれば嫌でも聞こえてくる静ちゃんに彼女ができたという話は、噂でもなんでもなくてただの事実。
それと、この前気がついてしまった私が静ちゃんを好きだったということも、事実。
二つの相反する事実に板挟みされて死んでしまいそうになる日が続いた。
最近静ちゃんは私と会っても刺しても殆ど追いかけてくることはなくなって、それでもあの子のことをほのめかせば本気で殺されちゃうと思えるほどの攻撃をかましてくる。全部避けたけど。
それ程大事にされているあの子に嫉妬までしちゃって、なんかもう自分が汚くて情けなくて見ていられない。
もういっそ、消えてしまいたい。

路地裏へと入り込んで、はぁはぁと荒い息を整えながら壁に背中を預ける。
黒いセーラー服の腕で目を覆ってみると、不覚にも泣きそうになってしまって、嫌だこんなの私らしくない。ぐ、と目に力をこめて袖が濡れないようにこらえた。

じゃり。

「臨美さん」
その時、革靴で地面を擦る音が。続いて私の名前を呼ぶ綺麗な声が響く。
驚いてそちらの方を向けば、今までに何度か見たことのある整った顔がそこにあった。
「幽くん…」
「お久しぶりです」
平和島幽。静ちゃんの弟で今はたしか、駆け出しのモデルとかやってたような。クラスの女子が騒いでいたのを覚えている。
そんな有名人が、何でこんなお世辞にもきれいとは言えないような路地裏に。
「どうしたの、こんなところに」
気になったのでそう聞いてみるが、目の前の彼の綺麗な表情は無表情のままで眉ひとつ動かない。少しぞくっとした。
暫くしても返答がないのでどうしたのかと思い内心小首をかしげていると、
「兄のことですか」
思わず体が大きく震えてしまった。
動悸が激しくなってどくんどくんうるさい。それでも足は全く動かなくて地に根をはってしまったようだ。
何でいきなり、どうして。何の脈絡もない無理やりつなぎ合わせたような話の流れに、普段会話で人を誘導させることの得意な私でもどうしていいかわからなくなる。
「…なんのこと」
「臨美さんは、」
気がつけば幽くんはすぐ目の前にいて、私の後ろはちょうど壁だから逃げられない。
万一のことを考えて袖口に隠してある隠しナイフを確認、見えない様に構えた、ところで。
「兄さんのこと好きでしょう」
反射的に腕が動いていた。大きく弧を描くように振りあげられたナイフがゆく先は目の前の彼の首の付け根。いくら弟とは言え静ちゃんとは違う普通の人間なのに、どうしてか抑えることができなかった。
刺さる、刺さってしまえばいい、そう思ったわけでもないのに。人には誰しも触れてはいけないところがあってそこに触れてしまった彼がいけないのだ。
私の頭上で光が反射して、そのまま銀色が彼の肌に、

   いくら待っても私の視界に赤は入ってこない。
ナイフが彼に当たる前に、私の振りあげた腕は幽くんによって握りしめられていた。
兄弟の血筋なのか。喧嘩ならそこらの男よりも強く素早さになら誰にも負けない自信がある私なのに、あっさりと目の前の男はそれを受け止めていて。
ついいつもの癖で反対側の隠しナイフをするりと出すが、それもまた今度は振りあげる前に腕を掴まれ壁に押し付けられる。
腕に力を込めて掴んでいる手を離そうとするも逆により強く握りしめられて、少し痛い。
「……臨美さん」
「何」
「別に俺は、貴女を怒らそうとしてきたわけではありません」
「………じゃあ何なの」
まるで私だけがぴりぴりしているような幽くんの落ち着いた声により私の不快感は増していく。掴まれている腕も痛いし何故か泣きそうだし、もう本気で消えてしまいたい。
「兄さんには彼女がいます」
「知ってるよそんなの」
吐き捨てるようにそう言ってもやはり目の前の顔は全く動かない。人形みたい。
「何なの、わざわざそんなことを伝えに来たの、人の傷をえぐりに来たの。」
今まで数度しか見たことはないけれど、一度もこの子の心情を読めたことなんてない、だから苦手なタイプだった。
幽くんも幽くんで、いつも自分の兄を切ったりしている私を快く思ってなんかいる筈がないので大して仲良くなんてしようとも思わなかったのに、腕を掴まれて私だけむかむかして。何で今こんなことになっているんだろう。
「違います」
ゆっくりと幽くんの腕の力が抜けていって、それでもやはり両手は離してくれない。
「貴女は兄が好きだ、だけど兄さんには彼女がいる。だから」
どうしようもなく何があっても変わらない絶対の事実を突き付けられ、つい俯く。前髪が垂れて額を擦った。
「俺じゃ、駄目ですか」

  やっぱり、この子は読めない。


100506
ごめんなさい、多分続きます…
最終的にカスイザに落ち着く予定。
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