※静雄×女子描写あり



静ちゃんが女子と付き合い始めたという話は瞬く間に校内中もとい池袋中の噂となった。
相手はヤンキーだとかキャバ嬢だとかはたまた社長の愛人だとか様々な憶測が飛び交ったが、残念ながらそれらは全て間違いで正解は一年のかわいくて大人しめの河内さんである。
河内さんのことが知られないのは、どうやら静ちゃんが彼女を守ろうとして隠しているかららしい。
ちなみに私がそれを知っているのは勿論私の情報収集能力が優れているからで、決して自分で調べたとかじゃ、ない。
「まさか静雄に彼女ができるとはねぇ」
屋上は風が強い。セーラー服のスカートがふわりと巻き上げられる。近くにいる新羅はフェンスに寄り掛かってしたを見ているので見られる心配はない。フェンスに背中を預けて、手に収めたホットココアを擦った。
「ね」
11月の屋上なんかに来る物好きは殆どおらず、ましてや放課後なんて寒い時間帯に来るのは私と新羅と静ちゃん位だった、あとたまにドタチン。
「意外、っていうかもう信じらんないよね」
「信じたくない、の間違いじゃなくて?」
さくり。どうしてかこの男は人の心の隙間を突いてくる。胸の奥がきゅう、と締まって、一気に息苦しくなった。
「何いってるの」
「泣きたい時は泣いた方がいいよ」
「私新羅の言ってることがわからない」
「じゃあそのままでいい」
耳の奥がつんとなって、一気に目尻にせりあがってくるものが、あ、やばい泣きそう。
何で涙が出てくるのわからない。別に私には関係ないことじゃないか。いつもみたいに彼女できたなんてらしくないねってからかって、殴られそうになって逃げて追いかけられて、それでいいじゃない。あ、でも彼女ができたんだから追いかけられることはなくなるのかな。
それは好都合、私は追いかけられなくなって殴られそうになる心配もなく、静ちゃんはかわいい彼女が怒りをしずめてくれるだろう。私が今まで静ちゃんにけしかけてた奴らもそこまで大怪我を負うことはなくなる気がする。皆幸せ。超ハッピーエンドじゃん。ほら、笑え私。
「...そんな風に泣かれると流石に困るな」
目尻にそっと新羅の指が押し当てられた。新羅の指に少しの水がたまって零れていくのを見て、はじめて自分が泣いていたことに気がつかされた。
「泣いてないし」
「そ。ちなみに僕の指を貸してあげるのは今日限りだからね」
僕は指の先までセルティのものなんだから、という新羅に指じゃなくてそこは普通胸でしょ、と突っ込みを入れる。いつものように笑おうとしたのにふにゃりとした笑い方になってしまった。
「泣きそうな顔して笑わなくていいよ」
だからそんな顔していない、そう言うにはもう私の視界はぼやけすぎていた。認めてしまってからはもうせきをきったかのようにぼろぼろと涙がこぼれる。
この気持ちは何なのだろうかと考えてみた。悲しい、そして同時に苦しいこの気持ちはやけに恋慕に似ていて、それにしては幼すぎる感情だった。まるで玩具を捕られた子供のようだ、と思ったがそれは強ち間違ってはいないのだろう。
涙はとどまるところを知らず、新羅は無言で近くにいてくれたのが少し有り難かった。胸を貸りたかったら門田のところに行っておいでと言われ、近いうちに行くことになる気がすると笑うと今度はさっきより少し上手くいったように感じた。
ああせめて今日が雨だったらよかったのに、それならばこの涙を雨だと誤魔化して自分を守ることができたのだろう。
しかし残念ながら今日は朝から雲ひとつない快晴で、見上げた空には赤が広がっているだけだった。

100312


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